熊本駅のホームが高架化でアートに
出典:毎日新聞
2018年3月17日に、JR九州 熊本駅のホームが全て高架化されました。
ホームのデザインは世界的に有名な建築家 安藤忠雄氏が手掛け、熊本の木材を活かしたおしゃれなデザインとなっています。
特に目を引くのは屋根を支える太く複雑な梁です。
非常にしっかりとした造りになっており、組木細工のようなデザインはまるでアートのようです。
夜は蛍光灯に照らされて陰影がくっきりと出て美しいですね。
この美しさはさすがの安藤忠雄氏と言ったところでしょう。
きっと熊本駅を利用していた熊本の皆さんも、3月17日を心待ちにしていたことでしょう。
ところが、いざ営業が始まってみるととんでもない設計だったことが分かりました。
ホームは激狭、利便性最悪に
まずはこちらの画像でホームの様子をご確認ください。
遠景では、降車客が改札に向かっている普通の姿に見えますが…
ホームが異様に狭く乗降客が車両の横ギリギリを歩いていることが分かります。
狭すぎて電車待ちのお客さんがホームに並べずに、ホームに沿って並んでいます。
2018年5月10日の熊本日日新聞で、この激狭ホームについて記事がありました。
※一部、名前を伏せています。
平日朝は通勤のサラリーマンや通学の高校生らが一斉に降車。ホーム下の階にある改札口に向かってエスカレーターや階段に集中し、熊本市の会社員は「狭いスペースを行き来しなければならず、人とぶつかりそうになる」と困惑する。
高架化前のホームは片側だけ線路に接する相対式と島式が組み合わさっており、幅は3・2~13・6メートル。ホーム中央部には細い柱やベンチしかなかった。上天草市から熊本市に通学する女子高校生(16)は「前のホームは広かった。今は混雑してなかなか前へ進めない」と不満げだ。
またツイッターの反応ものぞいてみましょう。
そして八代に帰って来ましたが、バスが交通渋滞で5分以上の遅れ。
この日は朝から遅れっぱなしでした。
熊本駅は全ホーム高架になってから初めて行きましたが、ホームがとても狭く線路に転落してもおかしくない程でした。
ネットニュースに取り上げられるほど狭い&混雑ありますね。— ゆう (@yuto2797) 2018年6月2日
やはり皆さん一様に、その狭さに対して不満を漏らしているようです。
では、いったいなぜこんなことになってしまったのでしょうか?
原因は2つあります。
原因その1
高架化に伴いホームの幅自体が狭くなってしまったことです。
十分な用地を確保できなかったため、以前の広さからかなり狭くせざるを得なかったようです。
高架化前のホーム幅は4.8メートルありましたが、高架後は3.4メートルしかありません。
つまり以前の70%しか無くなってしまいました。
原因その2
この太く重たい屋根を支えるための支柱となる柱です。
支柱なので均等に重さを支えるために一定間隔で立っていますが、それが異常に太い。
なんと幅が80センチの正方形になっています。
そもそもホームの幅が340センチしか無いのに、80センチの柱が立つと、柱のある部分の余白は260センチしかありません。
両サイドで割れば、片側130センチしかありません。
点字プレートと、白線エリアがあるので、人が通れる間隔は実質40センチしかありません。
以下に高架化前と、高架化後のホームの寸法を示した画像を掲載させていただきます。
高架化前は支柱がおよそ30センチで、滞留スペースは225センチありました。
出典:モーニングショー
高架化後はこのように、滞留スペースが130センチになってしまいました。
出典:モーニングショー
このように、ホームの幅が狭くなったうえに、デザイン性を優先するために太い支柱を建てたことから、滞留スペースが極端に減ってしまったというのが原因となります。
以下は支柱からホーム端までがわかる別角度の画像ですが、異様な狭さ、圧迫感がお分かりいただけると思います。
乗車人数から「綾瀬駅」と比較してみた
出典:ウィキペディア
熊本駅のホームがいかに危険になったかを測る尺度として、1日の乗車人数が同じ駅との比較をしてみます。
狭くても乗客人数が少なければ問題ない駅は沢山ありますから。
JR九州 熊本駅の2016年の1日の乗車人数は14576人でした。
※降車人数は含みません。
これは、JR九州の中でもトップ7の乗車人数になります。
もちろん熊本県では一番乗車人数が多い駅です。
この乗車人数に匹敵する、JR東日本の駅を調べたところ、綾瀬駅が該当しそうでした。
JR東日本 綾瀬駅の2016年の1日の乗車人数は14640人でした。
※千代田線は除きます。
だいたい人数が一致していることがお分かりいただけたでしょうか。
それでは次に、熊本駅と綾瀬駅の混雑時間帯におけるダイヤを比較してみます。
混雑時間帯は平日の朝7時~8時台、夕方17時~18時台とします。
熊本駅【JR鹿児島本線・JR豊肥本線】
7時~8時 23本
17時~18時 21本
混雑時間帯合計 44本
綾瀬駅【JR常磐線】
7時~8時 24本
17時~18時 28本
混雑時間帯合計 52本
7時~8時台は、熊本駅の方が1本少ないことが分かります。
17時~18時台は、熊本駅の方が7本少ないことが分かります。
混雑時間帯合計で算出すると、綾瀬駅に対して熊本駅は16%本数が少ないということになります。
本数が少ないということは、ダイヤの間隔が長く、待ち時間(滞留時間)が長いと言えます。
1日の乗車人数が同じで、待ち時間が長いということは、乗客がホームに溜まりやすいと言えます。
すなわち、
綾瀬駅よりも熊本駅はホームの滞留率が純粋に16%多い
ということになります。
純粋な滞留率が16%多い熊本駅が、さらに狭くなったということになりますが、実際にどの程度の差があるのでしょうか?
以下に、熊本駅のホームと綾瀬駅のホームを見比べやすい画像がありますので比較してみてください。
JR東日本 綾瀬駅
JR九州 熊本駅
出典:乗りものニュース
黄色い点字パネルの間隔、中央の支柱との間隔を見てもらうだけで一目瞭然だと思います。
ぱっと見でも、半分くらいに見えませんか?
熊本駅のホームは、ホーム全体の滞留スペースが異常に狭いんです。
1日の乗客人数が同じ綾瀬駅よりも滞留率が16%も多いのに、滞留スペースが半分ということで、いかに狭く、利便性が悪化してしまったかを理解していただけたのではないでしょうか。
激狭ホームの問題点
出典:乗りものニュース
この乗客人数の割に異様に狭いホームが抱えている問題点について考えてみました。
- 乗客が電車に接触する恐れがある
- 乗客が押されて転落する恐れがある
- 支柱の脇には車椅子が通る幅がほとんど無いため落下する恐れがある
- 太い支柱によりホームの遠くを見通すことができないため防災上良くない
- 列車から救急の患者を連れ出す際にどこにいるかの状況が掴みにくく、かつ救出が遅れる
特に日常的な頻度でいえば、乗客の電車に接触するリスクはかなり高いと言えます。
朝夕の交雑時間帯には数十人が幅の狭い支柱の脇を交差して通ります。
太い支柱部分は、点字プレートと、白線エリアがあるので、人が通れる間隔は実質40センチしかありません。
40センチといったら、大人の男性1人でもきつい間隔です。
自然と向かってくるひととすれ違う際には、点字エリアや白線エリアに足を踏み入れなければ通行できないんですね。
そもそも幅について法律で定められていなかったのでしょうか?
残念ながら、ホームの幅について法律では細かく定められてはいないようです。
以下にこの高架化を行ったJR九州のコメントがあります。
JR九州は、高架化前のホームの詳細については「分からない」としており、比較はできないが、移動のためのスペースが狭くなったことは認めている。
ホームの整備には法律による定めはなく、国土交通省は「安全対策は各社が実情に合わせて取り組むようにしている」とする一方、一定の目安は設定している。熊本駅のホームの移動スペースは幅が狭い所でも目安の1・0~1・5メートルを上回っており、同省九州運輸局は「国は指導できない。どう対応するかJRが判断すべきだ」と静観している。
出典:熊本日日新聞
一定の目安というものが「移動スペースは幅が狭い所でも1.0~1.5メートルを確保する」ということと記載されていますが、
黄色い点字プレートと白線エリアに入らないようにすると移動スペースは40センチしかないという「事実」には目をつぶっている感じがしませんか?
100歩譲って点字プレートは踏んで入ったとしても、点字プレートの外側はもう白線エリアなので、移動スペース1メートルは、確保できていないような気がします。
これでは、白線エリアもガシガシ歩いてくださいと言っているようなものです。
まとめ
デザインを手掛けた安藤忠雄氏は、デザインを提案したに過ぎないらしく、そのデザインをもとに安全性、保守性などを検討したのはJR九州の担当だったようです。
安藤忠雄氏がデザイナーとして防災などを加味したデザインにするかどうかは、依頼元との契約に基づいて決まっているのだろうと思います。
そうなると、このデザインで通したJR九州の責任ということになります。
もしこの狭いホームが原因で電車との接触や転落が起こり、人命に関わる事故となった場合、どう責任を取るのでしょうか。
JR九州の担当はこのように説明をしています。
在来線ホームが狭いという声はJR九州にも届いている。今のところ線路に転落するなどの事故は起きていないが、同社は「ホームで案内する職員を増やし、安全に移動してもらえるよう対応している。乗客の不安の声が続けばホームドアの設置も検討していく」と説明している。
出典:熊本日日新聞
ホームドアって…厚みが15センチか20センチくらいありますよね?
狭いホームがさらに狭くなります。
人は通れても、車椅子はかなりキワドイ間隔になりそうです。
熊本県民が一番使う駅は、熊本県の顔と言ってもいいでしょう。
熊本地震から立ち上がり、熊本城の修復も進んでいる今、熊本の皆さんが笑顔で駅を使えることが一番大事です。
その笑顔を曇らせないで欲しい。
とにかく安全性を最優先に考えて、事故が起こる前に対処をしていただきたいものです。
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