油圧機器大手KYBによるデータ改ざん問題
image:グッド!モーニングより
油圧機器大手KYBがデータ改ざんしていたことが問題となっています。
対象の機器は免震・制振用オイルダンパーで、居住用・商用・公共施設と多くの建物に設置されているものです。
このデータ改ざんに関する驚くべき引継ぎ研修が行われていました。
そして補償交換にかかる数千億円が経営破綻の引き金を引く可能性すらありえます。
油圧ダンパーのデータ改ざんとは?
KYBは2003年から、揺れを抑えるオイルダンパーの検査データを改ざんしていたといいます。
データが改ざんされたのは、以下の2つのオイルダンパーです。
地下に設置し地震の揺れを建物に伝えない「免震オイルダンパー」
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以下は実物のイメージです。
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建物に設置して揺れを抑える「制震オイルダンパー」
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以下は実物のイメージです。
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免震装置を設置した建物は、建物全体がほぼ垂直を保った状態で揺れ動くことで倒壊を免れるようになります。
そのため、このオイルダンパーが規定通りに機能しなければ、想定範囲内の揺れでも倒壊をしてしまう恐れがあるということになります。
この問題がある装置が使われている建物は全国で986件にものぼります。
原発、病院、マンションでも問題の装置が採用されていることが明らかにされており、最多はマンションのような住居で265件です。
地域でみると、東海3県だけで123件、関西では100件以上です。
改ざんの理由は?
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オイルダンパーは組み立てたあとに性能検査を行います。
もしそこで不適合になると、分解して再調整し、再度組み立てを行わなければなりません。
不適合の場合の再調整には平均して5時間がかかるそうです。
KYBはこのように説明しています。
検査で部品が不適合となると
再検査に手間と時間がかかるため
納期に間に合わせるために改ざんした
改ざんの経緯は?
2003年には、岐阜南工場で検査員が改ざんを行っていたことは分かっています。
実際にはもっと以前から行っていたかどうかはまだ分かっていません。
2007年に製造拠点が三重工場に移ったことを契機に検査員は全員入れ替わりました。
そこで行われた引き継ぎ研修で、驚愕のレクチャが行われていました。
岐阜の検査員が口頭で三重の検査員に対して、なんと改ざんのやり方についてもレクチャをしていたというのです。
結果的に15年間、改ざんの方法も一緒に担当間で引き継がれるようになり、少なくともこれまでに検査員8人が関与したとされています。
なぜ発覚した?
検査に関わる従業員が休憩中に改ざんの話をしていたところ、通りがかった別の従業員がたまたま聴いてしまい、上司に報告をしたことから発覚したということです。
この従業員が「悪いことでは?」という疑問を持って報告をし、上司も揉み消さずに向き合わなければ、今後も被害が拡大していった可能性があったといえるでしょう。
対象の建物名は?
どの建物かが気になるところですが、現時点で建物名は公表されていません。
公表というのは
関係の皆さまの合意
国交省さまとも相談しながら
やっていきたい
このように話しており、所有者の理解を得られた建物については10月19日より公表するとしています。
しかし、それでは万一の際に建物を所有する側の責任にもなりかねません。
自治体や企業からは、自ら装置の使用状況が明らかにされています。
訪れる人たちが得体のしれない不安に陥るよりは、自ら公表すべきという判断だと思います。
これは正しい判断ではないでしょうか。
ビルやタワー
- 六本木ヒルズ
- 東京スカイツリー
- 通天閣
こちらが通天閣に設置されたオイルダンバーです。
下から見上げると見えるようになっています。
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役所や病院
このオイルダンパーは防災拠点となる全国各地の役所や病院などでも使われています。
- 愛知県警本部
- あいち小児保健医療総合センター
- 神奈川県庁新庁舎
- 大坂府庁
- 東京都庁
原子力発電所
- 浜岡原発(静岡県)
非常用の発電機を置く建物に32基の免震装置を設置したといいます。
東京五輪関連
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東京五輪会場にも疑惑の装置が使用されていたことが判明しています。
水泳やバレーの競技会場として建設されている7つの施設で、不正があった免振装置と同じ型の装置が使われていることが明らかになりました。
設置予定の298基中、214基が取り付け済みです。
- オリンピックアクアティクスセンター
- 有明アリーナ
小池都知事は、工事中のため工期に間に合うように進めるよう指示を出しているようです。
補償はどうなる?
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KYBはデータ改ざんされた全製品を取り換える予定としています。
ではその補償交換による費用はどのようになっていくのでしょうか?
2015年に東洋ゴム工業の免震偽装問題がありました。
その際には、オイルダンパーではない、建物を縦に支える役割をするゴムの部分でのデータ改ざんでした。
官公庁、マンションなど30都道府県154棟に出荷をしており、2018年現在でも製品の交換作業は続いています。
2018年9月の時点で154棟のうち98棟が交換完了している状況なので、3年で2/3といった進捗でしょうか。
非常に交換には時間が掛かることがよく分かると思います。
オイルダンパーはものが違うので、もしかしたらさらに時間が掛かる可能性すらあります。
そして東洋ゴム工業は特別損失として、累計1400億円超を計上しており、さらに増えていくものとみられています。
KYBの場合、986件とおよそ6倍。
オイルダンパーはゴムよりもさらに大きく重たい機械で、交換時に補強をするためには建物や地面に大きな穴を開けなければいけないそうです。
この工事には時間や手間、莫大な費用が掛かります。
東洋ゴムの特別損失1400億の数倍を計上してしまう恐れすらあります。
まとめ
国土交通省が問題の装置を使用していても震度7の地震で倒壊の恐れはないとしています。
しかしこの問題はそれだけのことで済む話ではありません。
最も信頼が大切な、人の生命を預かるほどの装置ですから、決してやってはならないことだったはずです。
生命よりも効率性を優先してしまう組織の在り方そのものを、もう一度考えなおしていただきたいものです。
KYBはこの問題による損失で、下手をすれば会社の存続すら危うい事態になりかねません。
エアバッグの大手・タカタが大規模リコールで経営破綻をした問題は記憶に新しいですが、その二の舞となるかもしれません。
KYBにも多くの従業員がいて、家族を養っていることを考えるととても辛い状況になるかもしれませんが、数万人の生命を預かっていることをもう一度思い直し、交換に取り組んでいただきたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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