川崎市登戸で悲惨な事件が起こりました。
岩崎隆一容疑者(51歳)がバス停で19人を殺傷するという考えられないような事件です。
亡くなった小学生の子どもたちや、小山智史さんには心からご冥福をお祈り申し上げます。
多くの方が献花に訪れ手を合わせています。
image:モーニングショーより
未来のあるなしに関わらず、人の生命を自分勝手に奪った岩崎容疑者の犯行は到底許されるものではありません。
本来なら厳しく罰されるところですが、岩崎容疑者はその場で自殺してしまいました。
その場にいたひと、特に幼い子どもたちにとって、想像を絶する恐怖、惨状だったことでしょう。
メンタルケアをしっかりと行っていただきたいです。
image:モーニングショーより
実に理不尽に生命を奪った岩崎容疑者の犯行とはどういったものだったのでしょうか?
そしてその背後に横たわる8050問題と、光明を指した藤里町の施策について記事にしていきます。
岩崎容疑者の犯行とは?
2019年5月28日、午前7時35分ごろ、岩崎容疑者は登戸駅に到着しました。
バス停のあるカリタス小学校の通学路へ向かい、リュックを体の前にかけ直し、手袋を装着していたようです。
そして午前7時40分ごろ犯行に及びました。
バスのドライブレコーダーに犯行の一部始終が録画されていました。
岩崎容疑者はバスに乗る列の背後から近づき、まるで早送りのような速さで次々と襲い掛かっていました。
最初は逃げているひとがいないから
ほとんどの人が気づかずに
いきなり後ろからやられている
出典:モーニングショー
捜査関係者はドラレコの映像からこのように語っています。
岩崎容疑者は事前に真新しい包丁を何本も用意していたことも含めて考えると、極めて計画的な犯行だったとみられています。
指紋を気にして手袋をし、財布には10万円ほどの現金も入っていたことから、犯行後に逃走する計画だったと考えられています。
それでは何故、岩崎容疑者は犯行直後に自殺したのでしょうか?
バスの運転手が犯行に気が付いて「何している!?」と声を掛けたため、それに動揺した岩崎容疑者は咄嗟に自殺したという推測があります。
しかし声を掛けられ動揺したからといって、逃げる算段までしていた人間がその場で死を選べるものでしょうか?
そう考えると、いったんは逃走するも、どこかでひっそりと自殺することまで考えていたのかもしれません。
最終的には自殺するつもりでしたが、どうしてもその前に遂げておきたいことをやったというように思えます。
しかしバス運転手に指摘されたことで、「もういいや」という感覚になったのかもしれません。
ではこの「どうしてもやっておきたかったこと」とはなんでしょうか?
犯行の動機について、次項で考えていきます。
犯行の動機は?
image:モーニングショーより
画像は岩崎容疑者の中学卒業時のものだそうです。
現在の写真が使われることが多い中、中学生時代の写真「しか無かった」というところから、岩崎容疑者の置かれている状況が少しだけ理解できるのかもしれません。
岩崎容疑者はひきこもりの状態だったようで、現在まで面倒みていたのが、年老いた伯父、伯母だったそうです。
子ども時代は伯父、伯母の酷い差別に苦しんでいたことが分かっています。
この画像は岩崎容疑者の家族関係を表したものです。
image:モーニングショーより
幼いころに両親が離婚し伯父、伯母の家で育てられましたが、同居する従弟と差別される扱いを受けていたそうです。
近所の理髪店で、伯母は本来従弟である兄の髪型は坊ちゃん刈りに、岩崎容疑者は「丸刈りでいい」と指示していたそうです。
店主もあからさまに差別的な扱いを受けている岩崎容疑者を可哀想だと思っていたそうです。
岩崎容疑者の中にも、幼いながらに、自分を育ててもらっている引け目があったのかもしれません。
自分も同じように扱って欲しいなどと願望を言えなかったのでは。
また両親が離婚した原因が分かっていないそうです。
どちらにも「捨てられた」ことで、自分が嫌いだから両親が分かれたのか?という強い自己嫌悪があったことも想像できます。
このように岩崎容疑者には自分を好きになれない環境が揃っていたことが分かります。
その中で成長し進学をしますが、岩崎容疑者は地元の公立校に進学しました。
ところで、岩崎容疑者はわざわざ電車に乗って犯行場所まで来ており、極めて計画的で、カリタス学園のバスに乗ろうとしている行列をあえて狙ったことも十分にありうるとみられています。
なぜカリタス学園なのでしょうか?
5月31日の報道で、岩崎容疑者の親族にカリタス学園出身者がいたことが分かっています。
カリタス学園は私立のカトリック学校です。
もちろん学費も公立校に比べ高く、周辺住民からの目も違うでしょう。
このカリタス学園の出身者が親族の中の誰なのかは公表されていませんが、これがもし岩崎容疑者の兄(従弟)や年の近い親族だとしたらどうでしょうか。
伯父、伯母に差別的に育てられた環境を考えれば容易に想像がつきますね。
進学したくてもさせてもらえないし、進学していないことでまた理不尽に差別を受けるのでしょう。
もし周囲はそんなつもりが無くても、常に差別の中にあった岩崎容疑者にとってはこれもまた差別だと映っていたはず。
さらなるコンプレックス、劣等感、憎悪が育っていったのかもしれません。
そしてとうとう犯行に及ぶにあたり、カリタス学園という自分と対極にあった光の存在へ一矢を報いてやろうと考えたとしたら。
あまりにも自分勝手で、利己的な犯行と言わざるをえません。
しかし岩崎容疑者の中では自己正当化された行為だったのでしょう。
ただここで気になるのは、何故差別的に育てた張本人のはずの伯父、伯母に対して憎悪、復讐心を向けなかったかということです。
年老いた伯父、伯母ならすぐに殺めることができたでしょう。
それをせず無関係の人間を殺めたことは非常なる怒りが湧きますが、疑問も大きい。
この犯行には、もうひとつ重要な動機があったとみられています。
ひきこもり生活の限界と “8050問題” とは?
前述した通り岩崎容疑者はひきこもりに近い生活をしていました。
仕事をせず日中は部屋でゲームなどをして過ごし、両親には顔を合わせずに食事や小遣いをもってこさせ、夜は人目を避けるようにコンビニなどに外出していたようです。
こうした行動パターンをみれば、ひきこもりと認定されても仕方がありません。
親からみれば確実にひきこもりと感じていたでしょうし、市に相談する際もそのように話をする方が状況が伝わります。
このひきこもり認定が岩崎容疑者をさらに内向的にしていったという見方もありますが、ひきこもりの特徴的な生活をしているのなら、それはやむをえません。
両親や市の対応に大きな問題があったとは思えません。
岩崎容疑者は年老いた両親に面倒をみさせて生活をしていましたが、その両親は介護が必要となり、岩崎容疑者の面倒をみられなくなってきていたようです。
両親に面倒をみてもらわなければ生きていけなかった岩崎容疑者にとって、両親の限界は、ひきこもり生活の限界を表しています。
このままではひきこもりの生活を維持できないという、焦りと諦めが犯行を決断するトリガーになったことが推測されています。
しかし憎悪の対象が両親ではなくカリタス学園の子どもたちに向かった本当のところは、岩崎容疑者が亡くなってしまったことで分からなくなりました。
強いて状況証拠だけで推測するなら、カリタス学園の通っていた親族への当てつけという見方ができるかもしれません。
憎くてもこれまで育ててくれた両親を憎みきることはできず、その矛先を劣等感の原因のひとつに向けてしまったのかもしれません。
このように50歳代のひきこもりが80歳代の親の世話なっているケースが増加しており、それを「8050問題」と呼んでいます。
内閣府の2019年3月の推計では、全国の40~64歳の男女のうち、約61万人がひきこもり状態にあるとしています。
この数字は世間体からアンケートに正直に答えていないケースもあるそうなので、実際には100万人を越すのではないかとみられています。
40~64歳はだいたい4000万人なので、40人にひとりくらいがひきこもりの状態にあるという試算になります。
これはなかなかの人数になっているのではないでしょうか。
8050問題の本質は、親が体力的にも経済的にも厳しくなっているということです。
そして親の介護や死が目前にみえてきているということです。
もし親が亡くなったとしても、ひきこもりの状態であるため、生活保護の手続きさえままならないはずです。
そうなると食べていけなくなり、ひきこもりの子どもは孤独死、餓死者が増加します。
また自暴自棄になり自殺を考えるケースも増えます。
岩崎容疑者を犯行に駆り立てたものの要因のひとつは、この親の介護と死による焦りと諦めがあったとみるのは自然かもしれません。
4000万人もいる中高年のひきこもりと、8050問題は深刻さを増してくるはずですが、その問題を解決させた自治体があります。
秋田県藤里町の施策がひとつの鍵になるかもしれません。
秋田県藤里町の支援体制とは?
image:藤里町社会福祉協議会
藤里町のひきこもりの人数は、2010年の調査では113人でした。
その半数が中高年です。
3000人ほどしかいない町のなかで113人ということは、全国のひきこもりの中高年の割合とさほど変わらない割合になります。
113人は若年や老年も含む数ではあるとしても、単純な比率では統計的なサンプルになるわけです。
藤里町では2010年からひきこもりの対策を始めました。
その結果、5年間で86人が自立、2019年現在ではほとんどのひとが就業できているそうです。
2010年以降の中高年の人数(母数)とひきこもりの増加率も気になりますが、113人については就業できているということなら驚くべき成果だと言えそうです。
では藤里町はどういった対策を行ったのでしょうか?
まずは家から出てもらうため、交流の場となるレクレーション企画を実施しました。
しかしこの方法では全く人が集まりませんでした。
ほとんど家を出ようとしなかったということです。
そもそも人と会いたくない、恐怖心があるひとが「楽しいですよ」というだけの甘言で家を出るとは思えません。
その恐怖心の本質を考えると、心底自信喪失しているひとが多いようです。
リストラされた、何度も失敗を叱責されて立ち直れなくなった、過度の残業で心を病んだ、そうしたことでひきこもるひとは多いのです。
極端な表現をすれば、社会の役に立たないゴミのように思っているのかもしれません。
しかしこの自身喪失・諦めの感情の反面には、悔しさ・立ち直りたい想いがない交ぜになっているひとが多いという調査結果もあります。
藤里町はその蘇りたい気持ちにかけました。
単に交流の場を持たせるだけではなく「役割」を持ってもらうことを考えました。
市の担当が113人ひとりひとりの家に訪ね、就労情報のチラシを渡していきました。
内容はホームヘルパー2級(現・初任者研修)の資格取得ができる研修チラシだったそうです。
また対面でどういう研修なのかを口頭で説明しました。
どういった内容で、時間はどの程度かかるということを丁寧に説明しました。
その時に担当を話したAさんのインタビュー記事を抜粋します。
Aさんは地元の高校を卒業後、大学に進学。
東京のコンピューター会社に、プログラマーとして就職します。
しかし、スピードと高度な技術を要求される世界についていけず、結局、4年で退職。
地元に戻ることにしました。Aさん(40代)
「逃げたって言えば、逃げたのかもしれないですね。
東京で結構ハードな感じで、バリバリ頑張らなきゃみたいな感じの人もいましたし。
気を張って生きていかなきゃいけない、みたいな。
軽いノリではなかったんですけど、戻ろっかなみたいな感じで。」出典:クローズアップ現代
こうした地道な活動の結果「資格取得」に興味を示し、ひきこもりの人たちは施設に集まるようになりました。
その施設が「こみっと」です。
「こみっと」でホームヘルパーの資格取得の研修を受けることになりますが、これだけでとにもかくにも、毎日家を出て、通い、人に会う環境ができました。
またそれだけではありませんでした。
「こみっと」での研修期間に、食堂で働けるようにしました。
それが「お食事処 こみっと」です。
image:藤里町社会福祉協議会
そうすることで地域住民とのふれあいの場が生まれ、徐々にひきこもりのひとは自信を取り戻していったようです。
そして資格取得後の仕事のあっせんまで行いました。
ここまで手厚く面倒をみることで、113人の大半がひきこもりを脱することができたということです。
まとめ
image:モーニングショーより
藤里町の施策で優れている点は、ひきこもり対策であると同時に、ヘルパー不足への対策にもなったことです。
ひきこもり対策にかけた予算は、ヘルパー対策にかけるはずの予算と相殺とまではいかずとも、補うだけ成果を出せたはずです。
藤里町の施策はあくまで成功したケースですが、割合だけでみれば十分なサンプルになります。
「役割をもたせる」「自立するまで面倒をみる」というのはとても手間とお金がかかるので自治体も二の足を踏んでいる状況でしょう。
しかしながら働き盛りの100万人がお金を稼ぎ、地域にお金を落とし、納税をするまで計画に盛り込めれば、参考にしていく価値は十分にあるのではないでしょうか。
そのためには自治体任せではなダメですね。
ひきこもりの原因の一端が長引くデフレによるリストラにもあると考えれば、国にもしっかりと関わる責任があります。
もし今回の凄惨な事件のきっかけの一つが社会問題にあるとすれば、なおさら国と自治体がしっかりと手を組み、予算を組んで取り組んでもらいたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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