「元日馬富士による貴ノ岩暴行事件」の事件簿。貴乃花親方は何故沈黙?問題の全貌をみると見えてくる。

「元日馬富士による貴ノ岩暴行事件」の事件簿。貴乃花親方は何故沈黙?問題の全貌をみると見えてくる。

真実は一つ、のはずなのに

 

2017年の11月に発覚した「元日馬富士による貴ノ岩暴行事件」。真実はたったひとつのような気がするんですが、もう数カ月が経ってしまいましたね。この問題、いったいいつまで続くのでしょうね。年が明けてもまだまだという様子です。大怪我をして将来が危ぶまれる若者、引退した横綱、降格した親方と、負の結果ばかりが毎日のように報道されています。ちょっとウンザリさえします。

 

2017年当時の世間の反応は、モンゴル互助会による貴ノ岩の集団リンチでは?というものでした。貴乃花親方は「事件」としてしっかり警察に捜査してもらうため、相撲協会への報告よりも警察への報告を優先したということです。相撲協会はそうした貴乃花親方の行動を「報告の義務を怠った」として断罪しました。巡業部長まで任されている重役としての仕事を遂行出来ていないということでした。その姿勢については、協会はリンチをしたモンゴル互助会に厳罰をすべきで貴乃花を責めるのは体質が腐っているからだ、という意見が世論の大勢を占めていました。

 

 

しかし、年が明けて2018年、白鵬の処分が決まり、双方の調査報告が報道され、貴乃花親方は役員選を落選。なんだかフワッとした感じでマスコミも取り上げなくなっていき、この話題も終わっていくのかな?と思わせておいて、貴乃花親方の内閣府への告訴。

この問題、まだまだ尾を引きそうです。

 

網羅的かつまとまった時系列で整理しよう

 

いろんな人の意見やら報告やらで分けがわからなくなってきたので、これまでの経緯を網羅した時系列でまとめてみましょう。これを読めば事件の大筋がみえてくるはず。なお、この時系列は、危機管理委員会が公表した時系列も必要に応じて追加しています。もちろん細かすぎる部分は除外していますのであしからずです。

 

2017年9月 遺恨のきっかけとされる貴ノ岩の発言

  • 9月場所中、東京錦糸町のモンゴルバーで貴ノ岩が白鵬の友人に「これからは俺たちの時代だ」と言ったとされる。
  • 貴ノ岩は事件後に、その発言内容を否定している。

 

2017年10月 事件発生

  • 5日 秋巡業開始。
  • 25日 飲み会に貴ノ岩参加。鳥取城北高校の卒業生の力士らを激励しようと、高校関係者が食事会を開いたものだった。

モンゴル互助会の飲み会には、貴乃花親方から参加をしないよう言われていたが、高校の恩師も来ており、招きに応じなければ失礼にあたると判断し、参加を決めたものと思われます。

  • 2次会で本事件が発生。
  • 25日 病院で受診し頭部裂傷の縫合等の治療。
  • 26日 貴ノ岩は日馬富士に謝罪して握手をしているという。

協会執行部から、貴乃花親方と元日馬富士の師匠である伊勢ケ浜親方の話し合いを求めていた。つまり協会は「示談」で済ませようとしていた。このことで貴乃花親方はきちんと調査をしないと思い、協会に対して態度を硬化していったとみられています。

  • 29日 貴乃花親方と貴ノ岩から鳥取県警へ被害届を提出。
  • 30日~4日 貴ノ岩 福岡県内の病院に通院。

 

2017年11月 メディア報道の過熱と日馬富士の引退

  • 2日 横綱会で協会から貴乃花親方へ事実確認をしようとしたが欠席。
  • 3日 鏡山危機管理部長が事情を尋ねたが、貴乃花親方は「詳しいことを知らない」と回答。
  • 5日~9日 貴ノ岩入院。全治2週間の怪我と診断。同病院で診断書を作成。
  • 12日 九州場所初日。貴ノ岩休場。
  • 13日 相撲協会が貴ノ岩の診断書を公表。「相撲を取ることに支障がない」という認識だった。貴乃花親方は頑なに怪我のため休場と主張した。
  • 14日 九州場所 3日目に日馬富士は休場。同日、スポーツニッポン社が本件傷害を報道。ここで初めて事件が公になった。その後、他の報道も続いた。

当時は複数のメディアで「酒席で日馬富士が貴ノ岩の頭をビール瓶や灰皿で殴って大けがをさせた」と報じられていました。

  • 15日 白鵬、鶴竜が同席していたことを認めた。
  • 16日 ビール瓶は使っていないと白鵬の証言。
  • 17日 日馬富士が鳥取県警の事情聴取に応じ暴行の事実を認めた。カラオケのリモコンで殴ったことも認めた。
  • 17日~25日 5回にわたり貴ノ岩及び貴乃花親方の聴取を要請したが、親方はいずれも拒否。貴ノ岩の体調を気遣うとともに、警察の捜査に任せる意向を示した。
  • 27日 白鵬が観客に万歳の要求。同日、横綱審議委員会で本件の協議。聴取を拒む貴ノ岩、貴乃花親方に苦言。また現場に同席していたにも関わらず万歳を要求する白鵬の姿勢を問題視。
  • 29日 日馬富士引退会見。横審での厳しい処分の結果。

  • 30日 理事会。危機管理委員会から中間報告。ビール瓶や灰皿で殴った事実は無かったとのこと。この時点で貴ノ岩は聴取に応じていないので、この報告は日馬富士や白鵬といった他の参加者からの聴取結果。

初旬に貴乃花親方へ、八角理事長や鏡山親方らから被害届の取り下げを打診をしていたようです。要請には応じず、貴ノ岩の怪我の原因を協会も一緒に解明して欲しいと希望をしたそうです。このあたりの隠ぺい体質は、問題があったのではないでしょうか。貴乃花親方の不信感を余計に強めてしまう結果になったのだろうと推測できます。

 

2017年12月 貴乃花親方の理事解任と独自報告書を提出

  • 11日 日馬富士を書類送検。罰金50万円の略式命令。
  • 13日 貴乃花親方はマスメディアにも無言を貫き、捜査の進展を待つと発言。危機管理委員会の聴取には応じず。
  • 20日 協会理事会で貴乃花親方から正当性を主張する文書を提出。
  • 25日 危機管理委員会により貴乃花親方への事情聴取。

この時の内容は非公開ですが、20日に提出した文書と同様の主張をしたものと思われます。

  • 28日 臨時理事会を開催。「業務停止」と目されていたが「理事解任」となった。
      ※相撲協会の懲罰規定
       けん責<報酬減額<出場停止<業務停止<降格<引退勧告<懲戒解雇

 

親方として「業務停止」を言い渡されることは、稽古場へ行くことを禁じられることを表しており、事実上の営業停止処分。相撲協会もさすがにそれは部屋の力士たちが可哀想だし、世論を敵に回すことになるので、貴乃花親方個人への制裁に留めたものと考えられます。

理事会で白鵬への処分を決定しました。1か月分給与の全額不支給と、2月の給与の50%減額。同席した鶴竜や、八角理事長なども処分がありました。しかし、世間では、被害者側なのに理事解任までされた貴乃花親方と、加害者側なのに減俸だけで済んだ白鵬という構図がクローズアップされました。11月27日に白鵬が万歳要求をしていたことで余計にネガティブイメージが強まる傾向にありました。直接の加害者である日馬富士は引退をしていましたが、単に「いじめの傍観者も加害者」という見解を越えて、「白鵬が首謀者で日馬富士に暴行させたのに」というアンチでネットは溢れかえりました。

 

臨時理事会で貴乃花親方から独自の報告書を配布。

<貴乃花の報告書での経緯報告の概要>

  • 貴ノ岩は説教後20分経ってからスマホ画面を一瞬みただけ。
  • カラオケのリモコンで殴った後、さらにアイスピックを手に取ったことで初めて白鵬は止めに入った。
  • 日馬富士がアイスピックを片手に殺してやろうかと脅した。「何様なんだ、殺してやろうか」と脅した。
  • 白鵬も不審な行動をしていた。暴行が始まった後、個室内のホステスを外に出した。
  • 日馬富士を止めようと間に入った照ノ富士も数回殴られた。ひざを痛めている照ノ富士を10分以上正座させた。
     ※照ノ富士は事件後の九州場所で4連敗し左ひざの怪我悪化で休場となっている。

事件当日、貴ノ岩は同席していた石浦に自分がなぜ殴られたのかを聴いたそうです。貴ノ岩が明らかにおかしい行動をしたのなら、いくら酔っていても殴られた理由は状況からわかるように思います。つまり、殴られてもやむなしという雰囲気では無いのに、理不尽に殴られたという状況はあったのかもしれません。

もともと相撲界にはすぐに手を上げる習慣があるとされます。日本の運動系の部活もほんの10年くらい前までは、そんな習慣が残っていたと思います。(もしかしたら今でも残っているのかもしれませんが) 同席した力士たちがすぐに止めに入らなかったのは、白鵬ら他の力士の意識の問題もあったと擁護する見方もあります。

そうすると、貴乃花親方が貴ノ岩から聴きだした報告書との矛盾が生じます。なぜ白鵬は二次会でホステスを外に出したのでしょうか。当たり前のように行われている説教に準するレベルの平手打ち程度なら、わざわざ第三者を外に出しはしないように思います。その場は白鵬が仕切っており、ホステスを外に出すという権限は白鵬にあったと考えると、白鵬にも第三者にみられてはまずいレベルの暴力が行われるという認識があったと考えられますね。

 

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2018年1月 危機管理委員会の調査報告書を発表

  • 4日 鳥取簡裁から日馬富士へ罰金50万円の略式命令。元横綱は罪を認めており、納付済。同日、協会から危機管理委員会の報告書を発表。

<委員会が調査した経緯報告の概要>

  • 「これからはおれたちの時代」と貴ノ岩が言ったことについて白鵬らから説教。
  • 日馬富士は白鵬の説教に割って入り、貴ノ岩を庇った。
  • 二次会の席で別件で白鵬が全体に説教をし、ひと段落したころに貴ノ岩がスマホをいじりだした。それを日馬富士が戒めたが貴ノ岩が睨むような動作をしたため激高し暴行へと発展していった。一次会で庇ったのになぜ睨みつけるのか?と怒りを増幅したらしい。
  • まずは素手でたたいた。次にシャンパンボトルで殴るふりをしたがボトルは手から滑り落ちて落下。その為カラオケのリモコンを手に取った。白鵬はリモコンを手に取ったことで「ものを持たないようにしましょう」と止めたが間に合わず、リモコンで何度も殴った。

 

2018年2月 貴乃花親方が役員候補選に落選、テレビ特番での主張

  • 2日 貴乃花親方、役員候補選挙への出馬し落選。事前に懇意の親方衆と会食をひらき、結束を確かめるような動きがあったが、奇跡の当選とはならず。
  • 7日 貴乃花親方がテレビ朝日の特番 「独占緊急特報!!貴乃花親方すべてを語る」 に出演。協会は無断で出演したことを強く非難。

<貴乃花親方の主張>

  • 理事長選に負けたことは「蚊帳の外」だから当然だった。
  • 当時、協会ではなく警察のみに報告をし捜査を任せて正しかったと思う。
  • 貴ノ岩が事件について話さなかったのは事件当日に飲み会に参加していた高校時代の恩師に迷惑をかけたくないため。
  • 13日 相撲協会による再発防止の研修会。貴ノ岩は欠席。

 

2018年3月 内閣府への検査要求、貴公俊の暴行事件発生

  • 10日 貴乃花親方から内閣府に「相撲協会の対応に問題」として日馬富士による暴行事件で立ち入り検査要求。

同月にレスリング伊調選手の代理人による内閣府へのパワハラ告発を受けて実行したとしか思えないようなタイミングでした。その手があったか!というタイミングです。

  • 15日 春場所 貴乃花親方は初日から欠勤。協会からの出勤命令に応じ、5日目に出勤。役員室に入り2分40秒で退室。貴ノ岩の取り組みを見ずに会場を去った。協会は欠勤扱い。
  • 16日 貴乃花親方、貴ノ岩の取り組み後に出勤したが1秒で早退。本日も欠勤扱い。(3月17日追記)
  • 17日 貴乃花親方、出勤したが25秒で早退。貴ノ岩の取り組みを見ずに会場を去った。本日も欠勤扱い。(3月17日追記)

これまで貴乃花親方の味方をしていた世論は、この行動に子供っぽいという評価をし、徐々に批判に回り始めています。貴ノ岩の怪我を心配して医者と連絡を取り合う必要があるという理由のようですが、内閣府への告訴の後の行動なので、果たして何を考えての行動なのかさっぱり分からいですね。行政に訴えるのなら、客観的にみて子供っぽく映るような行動は返って不利になるような気もします。(3月17日追記)

  • 18日 貴乃花親方、春場所最長1時間15分の滞在。報道陣から真意を問われても「どうでしょう」と答えるのみだった。(3月19日追記) 同日、貴乃花部屋の貴公俊(たかよしとし)が付け人へ暴行したと報道。土俵下の控えに入るタイミングが遅れ、花道を走って入場したことを付け人の連絡ミスとして怒ったものとみられている。

貴乃花親方にとっての強みは「暴力を振るわれた被害者」として主張できることでした。貴公俊の一件で自身の部屋から加害者を出してしまい、被害者理論が崩壊してしまいました。内閣府への訴えも起こしており、親方の謎の連日早退。世間の風が変わりつつある中でこの報道は致命的かもしれませんね。貴乃花親方の言うように本当に相撲協会の腐敗があったのかもしれませんが、これで完全に形勢逆転し、事件はお蔵入りとなるのは少し残念な気もします。(3月19日追記)

 

まとめ

 

貴乃花親方はかねてから定例会後に「巡業先でモンゴル力士の部屋を越えた飲みが派手すぎる」とモンゴル勢への批判を関係者に発言していたそうです。また、貴乃花親方は貴ノ岩に対してモンゴル互助会に入るなと指示をしていたそうです。貴ノ岩はその言いつけを守っていたため、モンゴル互助会からは生意気だと思われていてもおかしくはありません。またそんな貴乃花親方へ、モンゴル勢から恨み文句があってもおかしくはないでしょう。

2017年1月の初場所で、2敗で稀勢の里を負う白鵬に、貴ノ岩が黒星をつけたことも、その後の事件に繋がる感情的なもつれの一旦だった可能性もあります。(この試合の前日に白鵬が貴ノ岩に何度も電話をしていたのを無視したという報道が一部メディアからありました)

「星の回し合い」と称する、八百長行為が行われていることを貴乃花親方は知っていたからこそ、こうした指示を出していたことが想像できます。もちろん互助会が主催する飲み会にも参加しないように命じていました。

この点についてマスコミが深く切り込むことは無いのが気になりますね。

モンゴル互助会と関わりたくない、できれば互助会を潰したい貴乃花の思惑。こうした貴乃花親方を目の上のたんこぶに思うモンゴル互助会。角界の決まりで外国人力士は親方になれないことに公然と不満を述べるほど権力を振りかざすようになった白鵬関。モンゴル力士が上位を独占する現状でコントロールできない横審及び相撲協会執行部。不祥事続きでなるべく大ごとにしたくなかった相撲協会執行部。

この辺りの思惑が、今回の事件の背景にあって、わかりづらくしているように思います。なお、過去の主な不祥事はこんなにあるんですね。

 

また、危機管理委員会の報告書と貴乃花親方の独自報告書との決定的な相違点があります。アイスピックについて全く触れられていない点と、殺してやろうかという表現は全く記載されていない点です。

危機管理委員会の調査はその場に居合わせたの人物からの証言を複合的に加味していると思います。しかし、第三者的な調査では無いという観点から、守りの調査になっている可能性はありますね。

貴乃花親方がヒアリングできるのは貴ノ岩だけですから、真実は一つのはずです。裏を返せば大袈裟に書くこともできる立場とも言えますね。「当事者の貴ノ岩がそう言っている」と言えばそれを肯定も否定もできるのは貴ノ岩だけなのですから。

もし誇張したり、無いとは思いたいですがモンゴル互助会を潰すために嘘をついているとしたら、それこそ相撲界がひっくり返るような不祥事です。でもそれはきっと闇の中に消えそうですね。

それにしても、貴乃花親方の「ちょっと顔出して、2分で帰る」行動って、「みんなの冷たい視線が怖い」っていう感じになってないかな?それが心配です。

力士時代から親方時代まで一貫してスターとして扱われてきて、相撲協会は彼の「貢献」に対してリスペクトもすれば、遠慮もしていたでしょう。ここにきて相撲協会との関係が険悪になって、これまでちやほやしてくれた人たちから冷たい視線を向けられる。対人恐怖に近い心理になっていまいか?

もしそうなっているとすれば、これまでの妙なまでの沈黙は説明がついてしまいます。この心理状態で内閣府への告訴とかしたら、ますますこじれてしまうのではないかなと心配になってしまいます。

この問題、もう少し事態を見つめていきたいと思います。

※参考記事

YOMIURI ONLINE
横綱の暴行 元日馬富士に罰金50万円 貴乃花親方は理事解任
https://www.yomiuri.co.jp/matome/20171117-OYT8T50021.html

JIJI.COM
「貴乃花親方の責任について」全文
httpss://www.jiji.com/jc/v4?id=201712sumokyokai0001

日刊スポーツ
貴乃花親方の弟子・貴公俊が支度部屋で付け人に暴行
httpss://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/201803180000621.html

その他、テレビでの報道など複数の情報で整合性の取れるものを集約しています。

 

関連記事を紹介させていただきます。

 

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