范冰冰(ファン・ビンビン)の失踪
image:モーニングショーより
お隣中国では、トップ女優 范冰冰(ファン・ビンビン)が4カ月近く失踪している問題がマスメディアに取り上げられているのはもうご承知の通りでしょう。
日本人にはたいして関係ない問題と気に留めていない方も多かろうと思いますが、お隣中国というお国を知る一つの例として注目しています。
中国版SNSのウェイボーでも突然更新をやめ、メディアにも表れなくなったことから、何があったのか?と騒動になっていました。
メディアからはファン・ビンビンの脱税疑惑で中国当局が拘束していると報じられました。
2018年9月14日の中国政府の定例記者会見で、外国人記者に彼女の消息について質問された中国外交部の報道官は、
それは外交上の問題だと考えているのか?
とちょっと半ギレ気味に聴き返した映像が世界に報道されていました。
突っつかれると苛立ちを見せるところが馬脚を表している感も否めないのですが、9月24日には中国税務当局が「脱税疑惑を調査している」と初めて認めました。
中国の芸能界には暗黙でまかり通っているとされる「陰陽契約」という脱税手法があります。
表(陽)の契約書に低い契約金額で作成し、裏(陰)の契約書を8割近い契約金額で作成して、当局には表の契約書だけで税申告することでほとんどを脱税をするというものです。
ファン・ビンビンはこの陰陽契約に関わっていたと告発されています。
失踪前夜
『携帯電話2』の撮影!楽しんでいる!
ファン・ビンビンが中国版SNSウェイボでこの投稿をしてから、1週間、忽然と消息を絶ってしまいました。
事務所も閉ざしており、インタビューなどには一切応じない構えです。
年収49億円とも言われる有名女優が消息を絶ったら目立つでしょうから、誰だって気に掛かります。
あくまでイメージしやすくするための日本での例えですが、知名度と複数の仕事を平行で持った状態を考えれば、綾瀬はるか辺りが行方不明になるのと同じくらいのインパクトがあると思えばよいかもしれません。
この『携帯電話2』という作品、実は今回の失踪に大きく絡んでいました。
この失踪の前に、実名入りの契約書を公開・告発されています。
告発したのは崔永元(サイ・エイゲン)55歳です。
彼はウェイボーで以下の投稿をし、1万以上拡散されています。
Huayi Brothersと共謀した585人の映画関係者のリストをまとめ、国家税務総局および関連部門にEXCEL形式で提出した。これには脱税が含まれていると思う。当局の調査と証拠収集の後、真実が明らかになると私は信じている。
Huayi Brothersは中国の映画制作会社です。
2014年には中国第7位の大手映画代理店ということなので、この代理店が陰陽契約に大きく関わっているという主張だろうと思います。
これが全て真実なら、多数の有名芸能人が検挙される大きな社会問題になるかもしれません。
崔永元は元国営テレビの人気司会者でした。
崔永元は范冰冰のウェイボへの投稿を読んで激怒したと言います。
image:グッド!モーニングより
『携帯電話2』の撮影中でとてもハッピーだと?
それで怒りを覚えた
必ずあなたを不幸にしてやると
~
まあ例えていうと
引き出しいっぱいの契約書を持っている
崔永元は、『携帯電話2』の監督、脚本家にも激しく罵るコメントを繰り返し、告発しているようです。
いったいこの『携帯電話2』と崔永元の繋がりとは何でしょうか?
映画『携帯電話』からの怨讐
image:モーニングショーより
2004年、『携帯電話』という映画が公開されました。
上の画像は当時のポスターの一部です。
中央がテレビ司会者、右側の女性がその愛人役のファン・ビンビンです。
崔永元は当時、この映画に激怒した経緯があります。
『携帯電話』とは、テレビ司会者の浮気が発覚し、その愛人に脅迫され、愛人に司会者の座を奪われるというストーリーでした。
つまり、ファン・ビンビンが司会者を脅して芸能界から叩き出すという設定です。
ちょっとこれだけだと何のこっちゃ?かもしれませんが、ここではそれで十分です。
崔永元は『携帯電話』が公開される前年の2003年にトーク番組を降板しています。
その後崔永元の後釜で、後輩の女性が司会者に抜擢されたそうです。
『携帯電話』はこの降板劇の実体験を元にした内容なのではと噂になり、映画が大ヒットしました。
ファン・ビンビンはこの演技で評判になり、中国最大の映画祭で最優秀女優賞を受賞。
これをきっかけに一気にスターダムにのし上がっていきました。
崔永元が降板した理由は病気だったそうですが、映画では愛人に脅され譲ったことになっています。
すっかり「不倫司会者」の汚名を着せられ仕事も人気も失った崔永元は激怒し、監督と脚本家を非難した過去がありました。
それから15年後に制作されていた続編『携帯電話2』で、ファン・ビンビンが呟いた
『携帯電話2』の撮影!楽しんでいる!
という言葉。
崔永元が実際に降板した理由は分かりませんが、「俺を奈落に蹴落としておいて続編など許さん!」と怒りを再燃させてしまったことは、やむを得ないのかもしれませんね。
まさに「荒稼ぎ」している彼女への嫉妬も多分にありそうです。
中国当局の狙い
image:ダイヤモンド・オンライン
芸能界の黒幕を検挙することと目されています。
それはいったい誰なのでしょうか?
まだはっきりとはしていませんが、軍関係者ではとささやかれているようです。
戦時中において、日本も含め世界中で戦意高揚映画が制作されていたことは有名ですが、中国の映画産業もまた、共産党のプロパガンダとして戦争映画を作るところから始まっており、いまだに軍との繋がりが強いとされています。
黒幕が軍関係者だとすると、行きつく先は中国政府の中の大物政治家ということになるのかもしれません。
習近平書記は汚職を無くすという名目で、自身の権力を盤石化するために強い影響力のある政敵を摘発・打倒してきました。
これまで芸能界の陰陽契約に目をつぶってきたのは政治的に影響力の強い軍関係者が関与していたたためのようですが、ついに禁断の領域にも手を入れたということでしょう。
習近平は発言力のあるライバルを打倒し、「永久国家主席」をさらに不動のものにしていくのでしょうか。
見えてくる人権無視
image:CNN
崔永元の告発は、中国ネットユーザの多くが支持しているそうですが、テレビなどのマスメディアでは報道規制が掛かっている状態のようです。
中国政府の定例記者会見で半ギレになったのも加味すると、人気女優の脱税容疑とはいえ、犯罪と特定していない状態で長期間にわたり拘束し続けているという「異常な状態」に対して、世論の反感を恐れていることが伺えそうです。
先日、ウイグル族再教育施設と呼ばれる「強制収容所」の存在が国連委員会の報告書で報告されました。
この報告書は国連人種差別撤廃委員会が30日に公表したもので、多数のウイグル族住民らが拘束されていると数多くの報告書が指摘している現状に警鐘を鳴らしていた。テロや宗教的な過激主義への対応策とする名分の下で、起訴や裁判もなく長期間、外部の世界との接触が絶たれた環境で拘束されているとも主張した。
出典:CNN
他にも体制にそぐわない人間を強制的に拘束したり、弾圧するということがいまだに行われ続けているのが、中国の「裏の顔」なのだろうと思います。
人民には汚職を無くすと善人の顔を見せ、裏では情報統制しながら思想・民族弾圧を継続しています。
ファン・ビンビンの拘束も、まさに「今起こっていること」として、中国共産党の傲慢さの延長線にあると思えます。
まとめ
image:モーニングショーより
中国共産党も抑えきれないのはネットの広がりです。
グレートファイアウォールで情報統制をしているとは言え、崔永元が政府に資料を提出したウェイボーの投稿は制御できていません。
ネットが無い時代なら、中国人民は心の中で
(政府が彼女を拘束しているんだろうな、これは関わってはいけない)
と「察し」、黙殺してきたのでしょうが、ネットによって理由が伝わってくるようになりました。
もちろん政府の活動のアピールとしてあえて投稿を許している側面もみえますが、同時にこれまでなら統制してきた情報が伝わることも許容せざるを得なくなっています。
この過程で人間に許されているはずの「人権」「自由」に気付く人民が増えて行く事が、中国政府にとっては最も恐れていることでしょう。
共産党の一党独裁、人権意識の低さ、人民の情報統制といった中国というお国を理解できる要素が、ファン・ビンビンの失踪ひとつからも見え隠れしています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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