マレーシアにおけるクールジャパン活動の悲惨さ
出典:古谷経衡氏ツイッターより
今回はアニメとクールジャパンの悲惨さを扱おうと思いますが、まずは文筆家の古谷経衡氏の現地取材のレポートからご紹介させていただきますね。
出典:Yahoo!ニュース
古谷経衡氏が視察されたのは、クールジャパンの発信元としてマレーシアのクアラルンプールの一等地に10億円でつくった「ISETAN The Japan Store」という物件です。
一瞥すると都内の百貨店とさして遜色は無い。が、昼間、人が賑わうはずの食品売り場コーナーには閑古鳥が鳴く。客はごくまばらで、現地採用と思われる従業員が「ヤサイ、サシミ」と空疎に連呼するばかりである。
その理由はすぐに判明した。全般的に値付けが半端なく高い。異様とも言える高級品ばかりが並んでいるのだ。マレーシアの通貨、リンギット(RM)を1RM=約30円と換算すると、山梨ぶどう1箱(2房)約20,000円、同じく山梨県産桃1箱(5個入)10,000円と来て、いちご1パック2,000円、はては日本では節約野菜として一袋100円程度で買える豆苗が一袋600円と続く。ごく市民的な日本のスーパーで一本280円程度で市販されているドレッシングが1,000円~、缶詰一缶1,000円~と何もかもこの調子で、段違いな高価格帯なのである。
「ヤサイ、サシミ」がとにかくやる気の無さを感じさせますね。
以下は古谷氏のツイッターに載せられた画像です。
クールジャパン機構(CJ機構)と民間が共同出資して作ったクアラルンプール中心部の「The Japan Store」にどれどれと行ってみる。ひ、酷すぎる・・・。ぶどう1箱20,000円、節約レシピの筈の豆苗600円、ワイングラス15,000円など、全体的に余りにも高すぎてお客さんが居ない。ここに幾ら使ったのか・・ pic.twitter.com/GIiZMJIdcv
— 古谷経衡@初小説『愛国奴』、小学館『女政治家の通信簿』(5/30同時発売)! (@aniotahosyu) 2018年5月31日
クールジャパン機構(CJ機構)と民間が共同出資して作ったクアラルンプール中心部の「The Japan Store」続報。ライトツナ3缶650円、キューピーごまドレッシング(中)1,000円、いちご1パック2,200円。慄然と肌に粟を感じた。この施設に税金が幾ら使われたか。高すぎて客がいない。写真は全て営業時間中 pic.twitter.com/aK5UolnxEv
— 古谷経衡@初小説『愛国奴』、小学館『女政治家の通信簿』(5/30同時発売)! (@aniotahosyu) 2018年5月31日
古谷氏は日本円に換算して記述されていましたが、逆に現地の値付けに換算してみました。
1リンギット=30円ということなので、現地の値付けは概算でこういうことになります。
山梨ぶどう1箱 20000円/30円=666リンギット
山梨県産桃1箱 10000円/30円=333リンギット
では、マレーシアの方がこれをみてどう思うかについて考えていきましょう。
マレーシア人の平均年収 マレーシア人の平均年収は60,000リンギット(RM)、日本円にすると約180万円といわれています。
出典:アジアマガジン
マレーシアの平均年収は60000リンギット(180万円)くらいだそうです。
12で割ると、平均月収5000リンギットということになります。
マレーシアの物価は日本の3分の1ほどと言われています。
屋台などの食事であれば1食100円から食べられるものもあります。出典:アジアマガジン
上記の記事から、マレーシアでは安い屋台で3リンギット(1食100円/30円=約3リンギット)から食べられるとのことなので、サラリーマンの昼食1食が平均して5リンギット、自炊すれば1食1リンギット程度として試算すると、
朝食、夕食 2リンギット
昼食 5リンギット
1日 7リンギット
1か月(30日)=210リンギット
平均して1か月210リンギットで食生活がまかなえることになります。
つまりこれがマレーシアの方々の「食べ物」に対する平均的な価値感と考えられます。
この価値観を、販売している日本の食べ物に当てはめると、恐らくこんなふうに感じている人もいるはずです。
山梨ぶどう1箱 666リンギット/210リンギット=3.17倍
「うわっ、3カ月以上の食費だな…」
山梨産桃1箱 333リンギット/210リンギット=1.58倍
「うわっ、2カ月近い食費だな…」
関税などを加味したとしても、この値付けがいかに異常かがお分かりになったと思います。
(まあ利権がらみで丸投げだからこういうことになっているんだろうけど…)
もし日本が同じ立場だったら?
出典:DANSTREET
さて、今度は逆に日本人が同じ立場だった場合に置き換えてみましょう。
(前文略)単純に家庭内での純粋な食費の合計額を知りたい方にとっては参考にしづらいのではないでしょうか。では次で、外食分とお酒分を除いた食費を紹介します。
単身世帯 月平均26,425円
出典:エネチェンジ
日本人単身での平均的な食費の月平均は26000円とのこと。
これは外食を抜いているので、昼食代にもう少し掛かっていることを加味すれば、単身サラリーマンの平均的な食費は30000円くらいではないでしょうか。
これをマレーシアの食べ物に対する価値観に当てはめて計算してみます。
海外の果物 A 30000円 x 3.17倍 = 95100円
海外の果物 B 30000円 x 1.58倍 = 47400円
ここからは、想像をしてみてください。
とてもあなたが興味深い国、その国の文化が好きになりかかっているとします。
その国が、わが日本の銀座の一等地に、文化交流の施設をつくりました。
ワクワクして中に入ってみると、その国の「美味しい」と噂の果物が売っているのでどれどれと見てみました。
果物1箱が「95100円」「47400円」などと値付けされていました。
どう思いますか?
ただ「高いなぁ~」と思いますか?
もちろんひとによって金銭感覚の違いはあると思いますが、僕だったら、その国に対して
おいおい舐めてるのか?ふざけてるのか?
と思います。
どう考えても売る気の無い金額ですから。
むしろ街中の百貨店で探せば、遥かに安く同じものが手に入るかもしれませんね。
この値段では確実に売れ残りますから、腐って廃棄すると思うととても悲しくなります。
かなり稼いでいる年収の高いひとでもこれでは買いませんね。
余裕のある人こそ、休日にその国に旅行をしてバカンスを楽しみながら、適正価格で食べるでしょう。
もしこの価格でも買う人が現れたとしたら、有名ユーチューバーくらいでしょうね。
「あの銀座の店に売っている馬鹿高い果物を食べてみた!」
というタイトルでアクセス数稼ぎに使うくらいじゃないでしょうか?
それで120万回くらい再生すれば概ね取り返せますしね。
僕が懸念するのは、こんな馬鹿みたいな値段で堂々と販売することで「お高くとまっている」というネガティブな印象がマレーシア人に定着してしまわないかなということです。
せっかく「謙虚な武士道の国」「アニメや漫画みたいなポップカルチャーが楽しい国」というポジティブな印象を持ってくれている皆さんが、「なんか引くわ~」とならないかなと。
そういうアンチニッポン運動を、日本自らでやらかしていやしませんか?
アニメという大事な産業を押し出していない
出典:古谷経衡氏ツイッターより
古谷経衡氏は、さらにアニメや漫画というクールジャパンの立役者的存在の扱いについても述べられています。
なにせ、このThe Japan Storeは、マレーシアにおけるクールジャパンの拠点として10億円の公費が投入されているのだ。まあ、なれない南方の土地。官にも多少の不手際はあろう。しかし、流石にクールジャパンの中心となる日本のアニメや漫画のコーナーは、相応充実しているに違いないと筆者は確信した。私は3F行きのエスカレーターに乗る。
そこには、大友克洋や押井守や今敏の作品の数々が鎮座し、また最低でもスタジオジブリのコーナーが「どっかーん」と展示されていると考えた、私が全て甘かったのである。3F「日本文化フロア」で、私を迎えたのは大友克洋でも押井守でも宮崎駿でも無く、ウォルト・ディズニーの『アナと雪の女王』及びデンマークの玩具メーカー『LEGO』、そしてミッキーマウスであった。
このように日本人が作ったアニメ作品に関するものをほとんど置かず、なぜかクールジャパンとして海外文化を普及させているという謎の実態に呆れてしまいました。
押井守氏の日本アニメへの警鐘
出典:BIGLOBEニュース
ここからは、いったん古谷氏のレポートから離れて、「攻殻機動隊」などの作品で有名なアニメーター 押井守氏が述べられている今の日本のアニメ産業の凋落についてお話していきます。
「何が原因かというと人がいない。人手不足。ものすごく労働を集約してとことん現場を絞った、そういう労働に耐える人間がいなくなっちゃった。低カロリーなスカスカしたものをバンバン作っちゃうぞみたいな。『濃い作品はいいから、商品をいっぱい作ってくれ。作品はいらないから、商品を作ってくれ』と言われたこともある。ふざけんな! と思うんだけど、割と今そうなっている」と自身のエピソードを交えながら説明した。
出典:BIGLOBEニュース
この話は僕も以前からよく耳にしておりまして、アニメーターは夢をもって業界に入ってくると、「夢だった仕事ができる!」というモチベーションだけで低賃金でも働いてしまうため、壊れてしまうひと、疲れてやめてしまうひとが多いと聞きます。
日本人アニメーターが減る一方、日本アニメの技術を身につけたい韓国などでは国策でアニメに投資をして、日本もそうしたオフィスに制作の一部を委託することが当たり前になってきています。
本来は日本のアニメーターはもっと高給をもらって、モチベーションを高めてもいいはずですが、制作側の台所が結構苦しい。
やっている仕事量、質からすると、ドラマやバラエティー番組なんかと比較しても、とんでもなくスポンサーからの出資額が安い。
でも別に悪意をもって低価格に買い叩いているわけではないと思っています。
アニメをよく観る方ならなんとなく理解いただけるかもしれませんが、アニメの合間に放送されるコマーシャルに、自動車や物件、宝石や美容整形などの高単価商品(サービス)はほとんど無いと思いませんか?
アニメは、ファーストフードやアニメ関連商品、玩具やゲームといった低単価商品(サービス)のコマーシャルが大半です。
当然といえば当然です。
コマーシャルというものはマーケティングの結果でスポンサーがつきますから、視聴者層に絞ったコマーシャルがつきますし、自然とその広告料に収束してしまいます。
スポンサーが低単価商品を扱っている場合は、なるべく安い広告費で性別や年齢層にあう番組に絞って顔を出したいし、スポンサーが高単価商品を扱っている場合は、高い広告費でゴールデンの高視聴率番組にどんと顔を出す方が効率が良いという考え方です。
しかしここに、悪意ではないとしても、アニメに対する意識の低さが蔓延しているというのは間違い無いのではないでしょうか。
今や大人が観ているアニメも沢山あるし、「濃いアニメ」への要求も高まっているのに、出資者側には依然として「子供や若者が観るもの」という意識が蔓延していて、「お金を持っている大人が広告を見てくれないだろう」という感覚があるのだろうと推察します。
その悪循環を抜けられていないから、日本のアニメ自体がどんどん凋落が止まらない。
スポンサーは放送前からDVD販売、物販での収益しか期待しておらず、刹那的な人気を取れる安っぽい低予算アニメばかりを要求してしまう。
そのために、深みがあったり、芸術性の高い濃い作品を作れなくなっているように思います。
まとめ
出典:古谷経衡氏ツイッターより
写真は日本人でも買わないだろう、馬鹿高い値が付いた時計屋ら貴金属の売り場のようです。
日本政府が推し進める「わかっていないクールジャパン政策」は、押井守氏のインタビューコメントとリンクするものがありました。
押井守氏の言葉を受け、アニメーションプロデューサーの竹内宏彰氏も同調されています。
「クールジャパンとして、日本のアニメや漫画、ゲームが世界で騒がれている。世界に広がり『受ける』というのが悪いことではないが、『すぐに認められて、すぐに売れる物を作れ』というオーダーが高まっている」
出典:BIGLOBEニュース
この言葉はとても深い。
クールジャパンとしていかに広げようとしても、お金を出す側が正しくアニメというものを理解していなければ、本当の文化には成りえないし、いずれ日本の文化ですらなくなってしまう恐れもあります。
肝心の日本のアニメ作品を紹介していない施設は、アニメを正しく文化としてとらえない出資者(政府)の無理解さ、いい加減さを露呈しています。
今の日本のアニメは、ネット動画配信などを通して世界中で愛され、そのグッズを求めてわざわざ海外から足を運ぶほどになってきています。
そうした作品は、最近の低予算アニメだけではなく、昭和の旧作から、アキラや北斗の拳、攻殻機動隊のようなヘビーな作品も含まれています。
ライトな作品から、濃い作品まで、全てひっくるめて「日本のアニメ文化」ということはまごうことなく言えます。
それなのに「すぐに売れるアニメを作れ」というオーダーをする時点で、スポンサーたちが世界が注目し期待しているクールジャパンの本質をきちんと理解できていないことをよく表しています。
無策に投資だけをするいい加減なクールジャパン政策、日本のアニメをきちんと理解できていないスポンサーによって、クールジャパン政策も、クールジャパンでビジネスに乗せたかった日本アニメ産業も、共倒れの危機に立たされています。
大事なことは、政府もスポンサーも、正しく現状を理解をすることです。
アニメ業界は、安易に低予算で制作してグッズ販売で客寄せしようとせず、ここはいったんきちんと採算がとれるようにマーケティングし、本来の骨太のアニメで成功させ、その成功をPDCAサイクルで繰り返し、濃いアニメでもビジネスに乗せらるとスポンサー側のマインドを変えていってもらうことかもしれませんね。
作品自体に投資するに値するものであると理解してもらうには継続的な投資が必要です。
まずはスポンサーが意識を変えてもらう必要がありますね。
あと政府は、、、安易に税金をドカドカとつぎ込んでアンチニッポンをするのをやめて、きちんとアニメやポップカルチャーを理解できるひとをアドバイザーに迎えて、国民が納得できる政策を進めていただきたいものです。
(アドバイザーの選択も必ず賛否両論な人を選びがちですが)
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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