あおり運転からの死亡事故
image:グッド!モーニングより
2017年6月に東名高速道路であおり運転を起因とした死亡事故がありました。
その原因とされている石橋和歩被告の初公判が開かれました。
危険運転致死傷罪、監禁致死傷罪で裁かれます。
厳罰を求めていますが、そうした厳罰では無罪となる可能性があります。
そうなれば反省が行われず、再犯しさらなる悲劇を生むかもしれません。
あおり運転をした結果の死亡事故にも関わらず、なぜ厳罰を与えられない可能性があるのでしょうか?
この事件の判断がどう難しいのかについて、分かりやすく解きほぐして書いていきます。
是非最後まで読んでいただけると幸いです。
また少しでも心に残ればSNSで拡散していただけると嬉しいです。
何があったのか?
image:グッド!モーニングより
2017年6月、神奈川県の東名高速道路で萩山さん親子を乗せたワゴン車を猛追した石橋和歩被告(26歳)。
ワゴン車の前方に出て、萩山さんがその前に追い越せないように、700mの間に4回もの進路妨害をしたうえで、追い越し車線で停車せざるを得ない状況に追い込みました。
さっきのはどういうことだよ
海に捨てるぞこら
殺されたいのか
高速道路に投げ入れてやんぞ
などと脅しました。
萩山さんと口論となっていた2分後、後方から大型トラックが突っ込みました。
挟まれた萩山夫妻は死亡しました。
萩山嘉久さん(45歳)、友香さん(39歳)。
image:グッド!モーニングより
image:グッド!モーニングより
同乗していた当時高校生と小学生の姉妹も軽傷を負いました。
萩山さん親子は直前のパーキングエリアで、通路に車を止めていた石橋和歩被告に注意されていたことに腹を立てたことがきっかけでした。
以下の画像でみると分かりやすいですが、約1.2kmをあおり運転でついてきたようです。
image:情報ライブミヤネ屋より
次女(13歳)の供述です。
パパがスライドドアを開けた
「邪魔だどけ」
と言った
パパが知らない人に大きな声で
怒ったことは見たことがなかった
パーキングエリアでそのように萩山さんが言ったとすれば、気の荒い人間を挑発してしまっていた可能性があります。
実際、石橋被告の自動車に同乗していた女性はこのように供述しています。
私は和歩がキレると思った
これまでも同じようなことがあったから
当初は追い越し車線に停車し口論となっていたことから萩山さんへの非が問いただされましたが、姉妹が事故直前の状況を警察に話したことで事態は一変しました。
石橋被告は2017年10月、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などで起訴されることになりました。
裁判のゆくえ
image:グッド!モーニングより
2018年9月7日、横浜地検は予備的訴因として、監禁致死傷罪を裁判所に追加請求しました。
これで石橋被告はこの2つの罪で裁かれることになりました。
危険運転致死傷罪
監禁致死傷罪
※他に2点の罪状もありますが主に罰を加えるためには上記2点ということです。
初公判で検察側はこのように主張しています。
危険運転致死傷罪での成立要件は
「危険な運転で人を死に至らしめること」
被告人の運転が重大な交通の危機を起こした
石橋被告の弁護士は、追突事故が発生するまでの事実関係はおおむね認めまた上で、危険運転致死傷罪について以下のように述べました。
事故は自動車の停止後に起きたものと考えます
罪の適用については争います
検察側が主張する条文は
高速走行中にだけ適用される
ルール外の適用は法律の拡大解釈につながる
また検察側は、ワゴン車を車線上に留まらせた行為が監禁にあたるとして監禁致死傷の罪も加えていますが、これについても弁護側は争う姿勢を示しています。
なお石橋被告は当時の状況についても否定しています。
追い越した方向が違う
起訴状の内容と違うけん
あと被害者をつかんだのは胸ぐらじゃなくて左腕
判決は12月14日に言い渡される予定です。
起こした罪と罰のギャップ
最高刑で、過失運転致死傷が懲役7年、危険運転致死傷が懲役20年です。
検察側は過失運転致死傷よりもはるかに重い罰を与えるために、危険運転致死傷で起訴をしました。
これは遺族の感情や、石橋被告のあおり運転を起因とするという状況に世論の感情も大きく動かされていたことを考慮したものです。
しかし危険運転致死傷は、危険運転と死傷の関連性が直結していることが前提となっているため認められる可能性は低いものとみられています。
そのため監禁致死傷を追加したようです。
監禁致死傷の刑法での定義は以下です。
人が一定の区域からでることを不可能
または著しく困難にして
その行動の自由を奪うこと
それにより死亡または障害
自動車を強制的に停車させたことが監禁にあたるという訴えです。
監禁致死傷罪も最高刑で懲役20年のため、危険運転致死傷罪か監禁致死傷罪のいずれかで重い罰を与えたいという思いがあります。
しかし進路を塞いだことが監禁といえるのかというとそれも一般的ではないため、最高刑20年どころか、起こした罪に対しては極めて軽い刑で済んでしまう可能性があります。
今回検察が危険運転致死傷罪、監禁致死傷罪のみで起訴をしているため、このどちらもそぐわないと判断されれば、完全無罪という可能性もあります。
裁判員にとって難しい判断
image:モーニングショーより
判例に当てはめて考えれば、20年は重すぎるでしょう。
過失運転致死傷程度の7年でも重いのかもしれません。
石橋被告は萩山夫妻の死に直接関与していないためです。
むしろ直接関与をしたのはトラック運転手の方です。
トラック運転手は以下のように供述しています。
男性は別の大型トラックの後に続きながら、一番右の追い越し車線を走行していた。前を走るトラックは車線変更をしてワゴン車との衝突を避けたが、男性は間に合わなかった。「車間距離を十分にとっていなかった。100メートルあればぶつかることはなかったと思う」と供述をしたという。
現場付近では、大型トラックは一番左の車線を走行することが義務づけられている。調書によると男性はそのことも分かっていたが、「東名高速は走り慣れているので、心のどこかで事故を起こすことはないと思っていた」という。
出典:朝日新聞DIGITAL
トラックの運転手は左側車線(走行車線)を走るという決まりを守っていなかったなどの自らの非を認めています。
しかし、遺族である姉妹は「このトラック運転手は悪くない」と話しているといいます。
そう擁護したくなるのも当然ですよね。
自動車を追い越し車線で止めさせたのが石橋被告です。
そこでワゴン車を止められていなければ、最悪の事態は避けられたと思ったでしょう。
そうです。
元凶はあおり運転をし高速道路上で喧嘩を始めた石橋被告のはずです。
感情ではそうです。
しかし、実際に追突したのはトラック運転手です。
現在の法律では、危険運転と死傷の関連性が直結していないため、石橋被告に死の原因を問うことは難しいかもしれません。
気をつけたいのは、感情だけで誰かを追い込んではいまいか?ということです。
確かに石橋被告は悪い。
しかし脅迫行為をしたことや、その人相の悪さや態度の悪さから「こいつは出てこなくていい」という判断は、法の下ではあってはなりません。
その概念の根幹に法の下の平等があるからです。
法の下の平等(ほうのもとのびょうどう)とは、国民1人1人が国家との法的権利・義務の関係において等しく扱われなければならないという観念
出典:Wikipedia
亡くなった萩山夫妻にも権利はありましたが、石橋被告にも権利があります。
他人の感情でこの権利が突然減ったり増えたりはしないのです。
まとめ
この事件の難しいところは「結果論をどう裁くのか」ということですね。
結果を引き起こした遠い原因に対して、厳罰を課すことができるのでしょうか?
双方の生命の重さが平等であるように、権利も平等にあります。
感情では石橋被告には出来るだけしっかり罰を受けて欲しいけれど、厳罰は難しいかもしれません。
石橋被告は2017年5月に山口県下関市内でトラックに対してあおり運転をし降車を要求、起訴されていました。
またその翌日には自動車の運転席ドアを足で蹴り壊す事件も起こし器物損壊で訴追されています。
その流れで6月に事件を起こしています。
石橋被告は取材を申し込んだ産経新聞に対して、30万円を要求しているといい、起こった結果に対して真摯に反省をしているとは考えにくい状況です。
この態度とこれまでの行動をみる限り、再犯することは容易に想像できます。
実際、6月に大事故を起こした後の8月21日にもあおり運転で降車要求し起訴されていました。
image:モーニングショーより
懲役ではなくても、本人がしっかり反省し心から謝罪に至るためのなんらかの罰は与えるべきでしょうね。
そうしなければまた不幸な事故を引き起こします。
またこうした事件の判決に、裁判員裁判がどう影響してくるのかをみていきたいと思います。
韓国では徴用工裁判で国家間の取り決めを無視し日本企業側を勝手に有罪と決めてしまうなど、国民感情が法律の判断を歪める事例が相次いでいます。
対する日本では、裁判に市民感覚をいれるはずの裁判員裁判が、結局、裁判官の判決で覆されるという批判も多くなっている。
市民感情なんか関係ないじゃないか、という批判ですね。
この事件で裁判員と判決のギャップがどのように出てくるのか。
こうした難しい裁判は多いですが改めて、日本の法律が感情で極端に揺れ動かないかどうか、バランス感覚を試されているのかもしれません。
そして付け加えれば、あおり運転をきっかけとした事故も厳罰を受けるというような法の整備を進める必要もありそうです。
ここまでお読みいただきありがとうございました
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