ネットでの誹謗中傷をし過ぎると自分が加害者に
出典:週刊女性PRIME
先日の、TOKIOの山口達也メンバーの事件、僕もびっくりしました。
山口くんがまさかのクビという事態を誰が予想したでしょうか。
山口達也メンバーが司会を務めていたNHKの番組「Rの法則」に出演していた女子高生に対して、「着いていった方が悪い」などの誹謗中傷をすることがあり、NHKからは誹謗中傷をやめるよう異例の声明を出しました。
5月11日の「モーニングクロス」(東京MXテレビ)という番組で、コメンテーターの関口舞さんから、このことについて提言がありました。
「IPアドレス=ネット上の住所」として、思ったより簡単に特定されてしまうので誹謗中傷を安易に書かないように、との提言でした。
仰る通り、ハンドルネームだから大丈夫、と思って書き込んでも、バレてしまいます。
書き込んだ自分が加害者になってしまうリスクがある、というお話は納得できるものでした。
ところで、モーニングクロスではツイッターで視聴者からリアルタイムにコメントを受け付け、画面下部に随時表示しているんですが、そこでこんな書き込みがありました。
「IPアドレスは変えられるよ」
「IP偽装なんていくらでもできるのに」
なるほど。
この2点の書き込みについて、ちょっと詳しく考えていきましょう。
ちょっと技術的な用語がでますが、できるだけ簡単に図を交えてご説明しますね。
※というわけでその辺の鋭い突っ込みはご容赦を(^^;
IPアドレスのお話
出典:カゴヤ・ジャパン
まずはIPアドレスについて知ってもらおうと思います。
IPアドレスには大別して2通りあります。
グローバルIPアドレス
あるIPアドレスは世界に一つしか存在していません。
そのため、インターネット上の住所とも言われています。
インターネットで通信をするにはこれが無ければできません。
組織では通信の出入り口に設定されます。
かつて、世界中でどんどん使ってしまったせいで、数がとても減っています。
プライベートIPアドレス
ある組織内(またはプロバイダ)で任意に沢山作ることができるアドレスです。
いわば組織内の住所ですね。
グローバルIPアドレスが減ってしまったので、プライベートIPアドレスの仕組みが作られました。
パソコンに設定されるIPアドレスはたいてい「192.168.XX.XX」のようなアドレスだと思いますが、これがプライベートIPアドレスです。
あるパソコンやサーバを直接インターネットに繋ぐためには、グローバルIPアドレスが要ります。
もし個人でWebサーバなどを作ってインターネットに公開をしたい場合は、グローバルIPアドレスを購入するか、プロバイダなどからレンタルする必要があります。
例えば、
個人がプロバイダ(ソネットとかビッグローブとか)に加入して、インターネットを使ってYahooを開く
という場合、図で説明するとこんな感じです。
グローバルIPアドレスのことを「GIP」、プライベートIPアドレスのことを「PIP」と略して書きますね。
プロバイダや企業は、グローバルIPアドレスを複数もっていて、切り替えながら使うのが一般的です。
パソコンにはプロバイダからプライベートIPアドレスを割り当てられていて、インターネットに通信する時に、グローバルIPアドレスとして出ていく仕組みになっています。
こうすることで、残りの少ないグローバルIPアドレス1つに対して、何百、何千ものパソコンをインターネットに繋げられるようにしているんですね。
これが、IPアドレスと、一般的な通信のお話です。
プロキシのお話
プロキシというサーバ(機能)を組み込んで、IPアドレスを変換してインターネットに繋げに行くという行為自体は特に企業では当たり前のように使われています。
プロキシとは、企業などの内部ネットワークとインターネットの境界にあり、内部のコンピュータの「代理」(proxy)としてインターネット上のコンピュータへ接続を行うコンピュータのこと。また、そのような機能を持つサーバソフトウェア。
出典:IT用語辞典
プロキシは「代理サーバ」と呼ばれており、企業内のパソコンやサーバからインターネットに通信が出ていく前に間に入って変わりに繋げに行く仕事をしています。
プロキシをすごく簡単に説明するため図を書きました。
実際は間にはルータとかスイッチとかいろいろありますが丸ッと省いてますのであしからずです!
プロキシを置くことで色々な良いことがあります。
例えば、キャッシュといって、一度表示したWebページをプロキシサーバの中に保存しておいて次回の表示を高速化したり、セキュリティを強化したりできます。
このセキュリティの強化をする目的として「匿名性の確保」があります。
グローバルIPアドレスで直接、インターネットごしにどこかのWebサーバなどにアクセスをすれば、ユーザの様々な個人情報が要求先のWWWサーバやWebページ管理者に伝わってしまいます。
実際にどういう情報が伝わっているかは、「確認くん」というページでわかりますのでこのURLを開いてみてください。(プロキシを設定は解除してください)
確認くん
どうでしょうか。
グローバルIPアドレスなどの情報が表示されましたでしょうか。
こうした情報(環境変数とかいいます)が分かってしまうと、以下のような影響があります。
ユーザ固有の環境変数が接続先のサイトに伝わることによってユーザはどのような影響を受けることになるのでしょうか。
一つにはプライバシーの問題が挙げられます。サイト管理者がアクセスログを取っている場合、どの辺りの地域に住み、どの組織(またはISP)に属している人が、いつ、どのページを、どのページのリンクから、どのくらいの頻度で、どのブラウザとOSを使って閲覧したのか、という情報が知られてしまうことになります。特に、掲示板やチャットに書き込みをした場合、投稿者の環境変数のうち幾つか(ホスト名等)がサイト管理者のみならず閲覧者全員に見えるように表示されることがあります。
このように、普通にインターネットに接続していると、自分の環境や興味の対象あるいは思想等を無闇に他人に知られたり、行動を監視されたりする恐れがあるのです。これではプライバシーも何もなく、安心してインターネットに接続できないという人も居ることでしょう。
すごく簡単に言うと、
繋げに行ったひとの情報が相手にバレバレになってしまう
ということですね。
企業でもこうした個人情報を秘匿したいという目的でプロキシを使っているケースもあります。
また、もし自身のIPアドレスがグローバルIPアドレスだった場合、自分の住所をさらしている状態と同じですので、直接攻撃を受けてしまう可能性が非常に高まります。
パソコンやサーバが乗っ取られてしまうなんてことも、ハッカーやクラッカーにしたらあっさりできてしまいます。
その場合にもプロキシを間に入れることで、セキュリティを高めたりしています。
こうしたプロキシの使い方が、「普通の使い方」です。
でもその機能を悪用して「悪い使い方」をすることも可能になっています。
例えば、悪意を持って特定のサーバを攻撃したり、誹謗中傷コメントを書き込んだりという行為ですね。
プロキシを悪意をもって使うときに、よく「IP偽装」が使われます。
「IP偽装」の説明をする前に、次項でまずは通常のユーザ特定についてお話しておきますね。
通常のユーザの特定は意外と簡単
警察を通じてプロバイダは情報開示要求をされることがあります。
日本の場合、警察から開示要求をされたら多くの場合に開示をしています。
法的に捜査協力をしなければいけないということになっているんですね。
例えば殺人予告とか、麻薬の売買についての書き込み、自殺サイトを介して自殺ほう助の事件が起こったりといったケースです。
また、単なる誹謗中傷でも相手の名誉を著しく傷つけたような場合はプロバイダも開示をします。
ユーザを特定する仕組みについてこの図で説明していきますね。
例によって、グローバルIPアドレスのことを「GIP」、プライベートIPアドレスのことを「PIP」と略して書いています。
例えば、PIP-Bを割り当てられているユーザが、Yahooニュースのコメント欄に非常に危険な書き込みを繰り返し書き込んでいたために、相手側から訴訟を起こされたとしましょう。
(Yahooというのはあくまで例えです(^^;
この時間帯にGIP-1とPIP-Bを使ってYahooのWebサーバにアクセスしていたユーザは誰か
をプロバイダがログを調べればあっさりとユーザは特定されてしまいます。
ログにはそういった履歴が全て残っています。
そして、プロバイダは契約によって個人の名前、住所、電話番号を押さえていますので、これでお縄です。
高須医院長の例
この例として、関口舞さんも例に出していましたが、高須克弥医院長の訴訟騒動が記憶に新しいですね。
ツイッターに「西原理恵子自身が、高須の慰安婦という存在な訳ですから」など、誹謗中傷の言葉を書き込まれ、高須医院長の逆鱗に触れてしまいました。
当初は高須医院長も、ツイッターで謝罪を要求するに留めていましたが、「虫尾緑」(ミュージオミドリ)というハンドルネームの相手側が挑発や言い訳を繰り返したため、高須医院長は弁護士を通じて名誉棄損で訴訟をすることにしました。
以下が高須医院長と相手側の一連のやり取りの一部です。
なお虫尾緑(ミュージオミドリ)氏のツイートは削除されています。
西原理恵子自身が、高須の慰安婦という存在な訳ですから・・・
RT 西原理恵子が高須院長と「朝鮮人絶滅」を叫ぶ犯罪的ヘイトデモを応援…パートナーに引きずられたではすまない責任 httpss://t.co/uixZHxnN4N @litera_webさんから— 虫尾緑(ミュージオミドリ) (@essssu) 2018年1月7日
おい❗こら
すぐに謝罪しろ。だだではすまさない。 httpss://t.co/oYCxmanHHX— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2018年1月7日
おっ、やるのか?
— 虫尾緑(ミュージオミドリ) (@essssu) 2018年1月7日
謝罪がないので名誉棄損で訴訟することにしました。いま連絡した担当弁護士さんの話では本人特定のためにTwitter社さんの協力が必要だそうです。ご迷惑をおかけします。
よろしくお願い申し上げます。 httpss://t.co/AwzP3T7YqM— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2018年1月7日
高須克弥さん初めましてこんばんは。
先ほど帰宅したところです。
高須克弥先生にとって、西原理恵子さんは、お互いが心をなぐさめあい、労をねぎらいあう対象(慰安)の女性のお友達(婦人)ではいらっしゃらないのですか?— 虫尾緑(ミュージオミドリ) (@essssu) 2018年1月7日
この世知辛い世の中で、心を許せる友人を持たれている事に対し私はとてもうらやましく思っていますよ。
この事以外なんら言及はさせて頂いていませんが、何か心に触るようなことがあるようでしたらお伝え頂ければありがたいです。
文中、敬称を略させて頂いている所は申し訳ありませんでした。— 虫尾緑(ミュージオミドリ) (@essssu) 2018年1月7日
『慰安婦』が侮辱だとよく知ってるてはないか❗💢😠💢
適当な言い訳は謝罪ではない。
法廷で弁明したまえ。聞きに行くから。 httpss://t.co/Ts0y8C2lbC— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2018年1月8日
謝るわけでもなく、侮辱と言い訳を繰り返していたため、弁護士を通じて警察、警察からツイッター社へ開示要求を出し、わずか1週間ほどで犯人特定されてしまったようです。
それにしても、とんでもない人を相手に喧嘩を売ったものですねぇ。
お金があると優秀な弁護士を雇えます。
そうすると警察を動かせます。
警察にどかどかと状況証拠を提出して相手を特定するに至ります。
このように普通に自宅やネットカフェで書き込んだ場合は、あっという間に特定されてしまいます。
「ハンドルネームだから」
「ネットカフェだから」
というのは通用しません。
ネットカフェも会員証を作り当日利用した帳簿が残されているので、IPアドレスからどのネットカフェかを辿りさえすればお縄です。
IP偽装をすると特定が困難に
さて、通常の特定は簡単なことはわかっていただけたと思いますが、IP偽装をすることで特定が難しくなります。
IP偽装とは、「公開プロキシ」や「VPNサーバ」を間に入れて通信をすることで、グローバルIPアドレスを本来のものと異なるものに変換してしまう行為です。
特定をされないためには、どちらも海外のサーバを設定することが普通です。
公開プロキシを使ったIP偽装はこの機能を悪用しています。(悪用前提なら)
公開プロキシでツイッターに誹謗中傷の書き込みをする場合について簡単な図を書いてみました。
これは公開プロキシを使う一例にすぎません。
公開プロキシサーバは海外のものを利用します。
公開プロキシサーバから出ていく通信は、別のグローバルIPアドレスに変換されます。
海外の公開プロキシサーバは履歴(ログ)を残す義務が無い場合が多く、アクセス元のグローバルIPアドレスが何だったを辿ることができなくなります。
ログはつまり「足跡」なので、足跡を消すことができてしまうというわけです。
こういった行為を「IP偽装」といい、警察の捜査を困難にするものです。
手段として、公開プロキシを直に利用するほかにも、匿名化ソフトを使えばできてしまうようなものまで出回っています。
以前は「IPスプーフィング」という手法で他人のIPアドレスに成りすます手法もありましたが、現在では難しくなっています。
このような行為で逮捕に至るケースもありますので、絶対にやめましょう。
警察 TorのIP改ざん解析に勝利宣言!|IPアドレス改ざん疑いで15歳逮捕 府警、発信元を特定。何故バレたかを検証する
参照:https://crowd-logic.com/blog/archives/16605
まとめ
最初にテーマにした、2つのツイートについてもう一度確認します。
「IPアドレスは変えられるよ」
「IP偽装なんていくらでもできるのに」
まず先の「IPアドレスは変えられるよ」というものは、もし意図が「パソコン側のIPアドレスが変更できる」という意味だったら、誤解(理解不足)ということはもうお分かりだと思います。
その時点のログとプロバイダの登録情報を辿るだけなので、後日いくら変更しても無駄なあがきということです。
そして後の「IP偽装なんていくらでもできるのに」というものについては、確かにその通りだろうと思いました。
まあそもそも、軽く誹謗中傷を書くようなひとがIP偽装なんて手の込んだことまでしないとは思いますけどね。
コメンテーターの関口舞さんが言いたかった本質は「誹謗中傷によるリスクを考えましょう」という提言だったので、ここまでのことに触れられていなかったのだろうと思います。
「相手がどう感じるか」「自分にどんなリスクがあるか」を想像力を持って対応することが大事
だと述べられていました。
全くもってその通り。
我が身のことでもあると、身が引き締まる思いでした。
2018年5月18日更新
「ネットなら相手にわからないはず」という油断がとんでもないことに。
その典型の事件が起こりましたね。
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