オレオレ詐欺のような「特殊詐欺」は近年、手順が心理を逆手に取った巧妙なものになってきています。
新しい手法が次々と考案され、やり取りの中で疑いづらくされています。
騙されたことが無いひとにとっては、「まさか俺はね!」と笑い飛ばすものですが、そう言っているひとが騙されるケースもあります。
2019年3月5日、俳優の斎藤洋介さん(67歳)が、オレオレ詐欺の被害にあっていたことを明かしました。
なんと斎藤さんは、2018年末に特殊詐欺について紹介する番組に出演していたそうです。
当然気をつけるべき注意点も説明があったでしょうし、斎藤さんも「俺は大丈夫」と認識をもっていたはずです。
image:ワイドスクランブルより
こうした騙されるはずが無いと思っていたひとが、何故騙されてしまうのでしょうか?
この記事ではオレオレ詐欺のメカニズムと、どうしたら回避できるのかについて考察していきます。
オレオレ詐欺の3つのフェーズ
オレオレ詐欺は大きくわけてこの3つのフェーズがあります。
①慌てさせる
②信用させる
③カネを渡せるかどうかの交渉
この3つのフェーズについてそれぞれお話していきたいと思います。
①慌てさせる
まず慌てさせるというフェーズですが、詐欺トークのベースになるものです。
問題の原因や態度で、いかに気持ちを動転させるか、慌てさせ、思考停止させるかがポイントです。
未成年者を妊娠させてしまった、などのキーワードで不安をあおりたてます。
慌てさせることで冷静さを失わせ、詐欺ではないのか?という疑惑を抱きづらくします。
この慌てさせるトークについては、次項の「よく使われるトークとその理由」でさらに詳しくお話いたします。
②信用させる
信用させるというフェーズの本質は、息子本人だと思わせることです。
あかの他人に騙されることと、実の息子が親を騙すことは全く意味が異なります。
とにかく息子本人だと思わせることが第一です。
息子の電話番号から電話が掛かってくればアドレス帳に入っているのですぐに信用できますが、詐欺犯人にそんなことができるわけはありません。
知らない電話番号か非通知で電話をしますが、それでは怪しむはずです。
怪しめば、本当に息子か、と思い息子の携帯電話に確認をしたくなるものです。
犯人はこの確認をさせないようにトークをコントロールし進めていきます。
怪しめばまず「電話はどうしたの?」と聴くはずなので、「電話を失くしたから」という理由をつけます。
急いでいてやむを得ず公衆電話を使ったことにします。
既に①で急ぐ理由は話しているため一応の整合性が取れます。
そこで冷静になり「嘘だろ!」と電話を切れれば終了ですが、「本当?」のように聴いてしまうと、犯人の思うつぼです。
親には大前提で子どもを疑いたくない、信じてあげたいという甘さがあります。
この甘さが強いひとほど「信じても良さそうな答え」さえ提示できれば信じやすくなります。
心理的に息子ではないことを否定しきれないということは、そのわずかな疑いさえ晴らしてしまえば一気に陥落できると踏んで次の一手を打ちます。
ポイントは親の側に電話を切らせないことです。
いったん「息子」は「ちょっと待って、すぐかけ直すから」と電話を切ります。
こうすることで、親はまず息子からの電話を待つ流れになるため、他へ確認の電話を躊躇するはずです。
そこですかさず、遺失物預かり担当と名乗って別の他人に装って連絡をします。
〇〇駅の遺失物預かりですが、電話が届いていますが息子さんのものではないでしょうか?
のように言われると、まさか遺失物預かりがグルになっているわけはあるまいと思います。
斎藤洋介さんも「新宿遺失物預かりのハシモト」と名乗る男性から電話が掛かってきたといいます。
もともと信じたいと思っていたため「携帯電話を失くしたという言葉が本当だった=息子は本物だった」というように脳がコントロールされてしまいます。
そもそも携帯電話にはセキュリティロックが掛かっているものなので、冷静なら遺失物預かり担当が自ら親に連絡を取るというのも妙な行動だと気付くはずですが、携帯電話会に確認をとったと伝えることで信じさせてしまうようです。
その後「息子」から電話が掛かり、
「え?遺失物預かりに届いてたんだ、ありがとう。
でもそれよりも先にカネが無いと困るんだ」
というようにトークを進めるわけです。
この時点で思考停止し、かつ息子だと信用してしまっているため、「よく耳にする詐欺ではないのか?」という冷静な発想には至らなくなってしまうわけです。
また事前に、息子と名乗って「携帯電話番号が変わったから変更しておいて」と先手を打っておき、その数日あとに詐欺電話をするという「仕込み」をするケースもあると聴きます。
こうすれば既にアドレス帳に「息子」の携帯電話番号が入っているため、あっさりと信用してしまうわけです。
息子がいるかどうかを事前に調査することにもなり、この手法がハマると非常に簡単に信用させられますが、時間を空けることで本物の息子から連絡があればバレてしまうことになります。
そのリスク回避のため、番号変更の連絡をしたその日中に詐欺電話をする場合もありそうです。
③カネを渡せるかどうかの交渉
思考停止させ、信用させれば、もう犯人のてのひらです。
これはよく使われる交渉術の一例です。
「息子」は払えそうな金額の上限を提示してきます。
どうしても500万円必要なんだ
そこを断るときに心理的なポイントがあります。
そんな金額では払えないよ
そう断ると、額を下げれば払えるという交渉の余地を作ってしまいます。
営業トークでも使われる心理を突いた会話術です。
それでは今日中に100万円だけでもなんとか…
残りは後日で良いと言われているからそれだけでも用意して欲しい…
後の400万円は自分でなんとかします
そう畳みかけられたら、親の情が上回りなんとか用意してあげようかと心が動いてしまいます。
犯人にしてみればこの100万円を数十人から奪い取れれば数千万円を稼げるのです。
逮捕時は容疑がある案件がフォーカスされるので100万円で逮捕されて馬鹿なやつだと思いがちですが、実際は100万円を奪える犯罪者は数千万円から数億円を奪っているはずです。
このフェーズでも、お金を工面するために別の家族に連絡をしたことで詐欺が発覚したケースがあります。
犯人は別の家族への連絡をさせまいとコントロールしているはずなので運が良かったケースと言えるかもしれません。
よく使われるトークとその理由
以下がオレオレ詐欺でよく使われる「慌てさせるためのトーク」の例です。
「息子」が失敗をして親に泣きついている設定です。
例1)未成年者を妊娠させてしまった。
例2)会社のカネを使いこんでしまった。
いずれもすぐにカネを用意しないといけないという懇願に繋げます。
このトークは何気なくそれっぽいものを使っているようで、実は巧妙に考えられたものです。
ポイントは以下の3点です。
①「息子」に非がある
全て「息子」がミスをしたことで、息子自身に重い責任が降りかかっている状況です。
息子が成人していたとしても、息子のミスは親の責任という意識がいつまでも浮かんでしまいがちです。
その感情を逆手にとるために「息子」が悪いことをした立場を演出しています。
②警察に相談しにくい
未成年者の親や会社の上司から追及されており、警察が関与する余地はその時点では無い印象を与えます。
会社のカネを使いこんだのは会社から警察に通報されればおしまいですが、会社にとっても印象の悪い不祥事なので内々で終わらせたいという意思があるのかも?と思わせる設定と言えます。
「預かっていた友人のカネを何者かに盗まれてしまい友人から速やかに返済するように言われて困っている」などという理由ではダメなことはお分かりいただけるはずです。
「盗まれて紛失したのならあなたに責任は無い、私が警察に連絡してあげるから」という展開になると困るのでこんな理由は絶対に使わないはずです。
③「息子」の人生が終わるかもしれない
電話をしてきた「息子」が、相手の強い怒りをうけており今すぐに何とかしないと人生が終わってしまうかもしれないという切迫した印象を与えます。
親が息子を想う気持ちは、息子が40歳、50歳になっても変わりません。
息子の尻ぬぐいはしないといけないと思う親は多いのでは。
その気持ちを逆手にとる内容です。
より手の込んだオレオレ詐欺
「息子」本人からいきなり電話を掛ける他によく使われるのが、「息子」ではなく相手側の弁護士だったり会社の上司というケースです。
そこから「息子」に代わり、情けない声で「カネが必要なんだ…」と言われると、より深刻に受け止めやすくなります。
この方法だと「息子」の携帯電話番号ではなく見知らぬ固定番号だったとしてもその理由にはなります。
役割を事前に複数用意しており、シナリオもしっかりと作りこんでいます。
遺失物担当の例もそうですが、人間は二者間だと信じにくいことでも、まったく別の第三者が絡んで穴埋めをすることで、疑惑の壁はもろくも崩壊するものだという心理を突いています。
そしてその場で「息子」が何者かに怖い思いをさせられ、泣いているのかもと思うとやりきれなくなる親の情さえも利用しているのです。
こうした役割を決めてグループで騙す手法で最近話題になったのは、地面師詐欺がありましたね。
地面師詐欺の場合はもっと徹底的に調べ上げ、手に入れる報酬も莫大なものでしたが。
オレオレ詐欺を見抜くには?
詐欺を働く際に、電話の先のひとに息子がいるかどうか、息子の仕事は、年齢はということまで下調べしてから取り掛かっていないケースの方が多いようです。
資産状況や家族構成などを丁寧に下調べし、数人で役割を決め、シナリオを作りこんで挑むケースもあるますが、そこまで本格的になると時間も手間もかかるので得られる金額が一回に100万円程度では見合わなくなります。
資産状況からもっと大きな金額を提示しても引き出せると踏むような手の込んだものよりは、電話帳で手あたり次第に電話をして当たりをつける方が手っ取り早く、件数が圧倒的に多くなります。
その為、自身に「息子」がいなければ即座に終了です。
問題はここからです。
実の息子がいる場合です。
例えば会社のカネを使いこんでしまったというケースなら、実は会社の名前を言わせればすぐにおかしいと気付けるはずです。
「息子」が働いている会社名など下調べをしているわけもなく、単に汎用性を持たせて会社と言っているだけです。
ところが冷静さを欠いていると、「〇〇会社の?」などと自ら犯人に信用させるヒントを与えてしまうのです。
それを言わせてしまえばしめたものです。
犯人はトークの端々で「〇〇会社の上司に怒られていて」と使うようになるはずです。
自ら〇〇会社と教えてあげたにも関わらず「〇〇会社と言っているから息子のはず」というように、記憶が混濁してくると勝手に信用する方で解釈をしてしまいます。
こうなると犯人の思うつぼ。
携帯電話番号が違うことなどお構いなしに無条件で信用し、カネを渡せるかどうかという交渉に持ち込まれてしまうでしょう。
①慌てさせる
②信用させる
③カネを渡せるかどうかの交渉
この3つのフェーズに乗って会話をしてしまうことで、相手を疑うことができなくなってしまいます。
裏を返せば、オレオレ詐欺を見抜くにはこのフェーズの①にあたる、慌てさせるフェーズで慌てなければ良いのです。
ここで慌ててしまわなければ疑いを持って会話ができるので、③の交渉に至らずに終わります。
簡単に慌てるなと言われても…
残念ながら、その通りなのです。
これだけ社会問題になり、テレビでも連日のように伝えられている詐欺なのにいまだに引っ掛かってしまうのは、どうしても慌ててしまい冷静さを失ってしまうからです。
騙されてしまった斎藤洋介さんも「冷静でいられるはずがない」と言い切っています。
オレオレ詐欺の巧みな手法の前に容易に騙されてしまわないためには、日ごろから知識を持ち、疑う心を持つより無いのかもしれません。
知識だけではダメです。
自分自身に常に問うてみる心が大切なのです。
まとめ
オレオレ詐欺のような特殊詐欺の特徴は、いかに慌てさせ、信用させるかの新しい方法を次々と考案しているということです。
しかし共通しているのは「名前」と「電話番号」のいずれか、もしくは両方に対する疑惑が解決すれば、概ね信用してしまうという点です。
この2つの個人情報をいかに駆使して信用させるかが鍵になっていると言っても過言ではありません。
また近年は営業などでも使われるひとの心を動かす心理学を応用しているケースが目立っています。
こうした心理学を応用していることを思えば、自身が詐欺にかかりやすいかどうかを事前に知っておくことはできそうです。
店で店員から洋服などを勧められるとつい買ってしまいがちではありませんか?
自宅にやってきた営業マンの言葉を信じて高額なものを買ったことはありませんか?
新興宗教やネズミ講などの勧誘で説明を聴くところまで行ったことはありませんか?
いずれも心のすき間に忍び込むトークという点で共通しています。
また友人や家族の間で「人が良い」と思われがちではないですか?
人を信用することは間違いではありませんが、それと疑う心を持つことは別の技術です。
多くのひとはこれを混同させ「面倒だから基本は信用すればいい」と簡単にしてしまっています。
いずれかに心当たりがあるひとは、自身が詐欺にかかりやすいかもしれないと思い注意してみてもよいかもしれません。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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