知っておきたい事件の本質
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2018年11月19日、日産のカリスマ経営者 カルロス・ゴーンが逮捕されました。
このニュースは世界中に衝撃を走らせました。
敏腕経営者として世界で認められた人物だったためです。
逮捕容疑は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)です。
報酬額を大幅に少なく記載して報告していたということですね。
そもそもなぜ2018年のこの時期になって逮捕?という疑問を持たれている方は多いでしょう。
有価証券報告書というのは会社で作成し、会計監査でも調べるものなので、何年も記載が漏れていたのならもっと早くに指摘し修正させているべきことです。
恐らく会社の役員が関与していたため免れていたとみられますが、それならなぜ今、ゴーン容疑者は逮捕されるに至ったのでしょうか?
それは日産の経営陣が「ゴーン追放」を狙ったためということは間違いないでしょう。
司法取引が行われていることからみても、ゴーン容疑者の不正を東京地検に売ったとみるべきでしょう。
なぜ「ゴーン追放」をしなければならなかったのでしょうか?
背後にうごめくフランス政府、マクロン大統領の策略とは?
日産とルノーの間に横たわる「ねじれ」の状態と、フランス政府の経営統合に向けた「圧力」を、極力難しい単語を使わずに超簡単に解説していきます。
ルノーと日産の間に横たわる「ねじれ」とは?
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日産の2017年の販売台数は約581万台。
時価総額は約4兆270億円です。
ルノーの2017年の販売台数は約376万台。
時価総額は約2兆2500億円です。
自動車会社としての実力は日産が明らかに格上なことはお分かりいただけると思います。
いまやルノーの売上の半分(54%)は日産が作っていると言われています。
対する株式保有数については、ルノーは日産株を43.4%保有しており、日産の議決権をもっています。
これはかつて日産の経営が傾いたときにルノーが「助け舟」を出したかたちのままだからです。
日産はルノーの株式を15%保有していますが、これでは議決権をもてません。
議決権の有無で会社の方針が決められるため、事実上日産を牛耳っているのはルノーということになります。
そしてルノーの筆頭株主はフランス政府で15.01%を出資しているため、日産は完全ではないにしろフランス政府の管理下にあるともいえるわけです。
※フランスの会社法により株式を2年以上保有していると議決権が倍になるため、フランス政府のルノーに対する議決権は30%保有と同じということになっています。
この実力差と議決権が相反する状態のことを「ねじれ」と呼んでいます。
日産がどれだけ頑張っても、売上を回復していっても、このねじれにより立場は支配されたままです。
これが日産の日本人役員からすれば不満が蓄積される根本でした。
このねじれを解消し、日産のことは日産で決めていくためには、ルノーの株式を25%以上保有する必要があります。
そうすれば日本の会社法が適用されルノーの議決権が消滅します。
経済的には2000億円ほどなので日産の保有資産からすれば十分に可能ですが、普通にやろうとしてもルノーの承諾が必要なので、そうやすやすと飲むわけがありません。
株式を得るには敵対的買収にトライする理由が必要になるはずです。
敵対的買収というのは、買収の対象企業の取締役や親会社の事前の同意を得ずに既存の株主から株式を買い集めて企業を買収することです。
ルノーが所有していないルノー株を買い集めて25%以上にしてしまうということになりそうですが、商法上の制約もあるし、失敗すれば仕掛けた経営陣は人生を失うほどの覚悟が必要でしょう。
これでは「ゴーン追放」をしたところで「ねじれ」が解消されるわけでは無いように思えますよね。
それでも日産が「ゴーン追放」をしなければならなかった理由は、ルノーによる「ねじれ」の解消、つまり日産の経営統合に対する危惧があったと言われています。
フランス政府は日産の経営統合を目論んでいたのか?
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ゴーン容疑者は2018年9月の取締役会で、
今のままのアライアンス(提携)でいいのか
改めて見直す議論をするのはどうか
とルノーとの関係を見直しを促す発言をしています。
この時には経営統合の言葉を出していませんが、明らかにルノーとの経営統合の意図が無ければこの発言は出ていないはずです。
ルノーは元々フランスの国営企業で、現在もフランス政府が15%(議決権は事実上30%)を保有し、強い発言力を持っています。
そのルノーが日産を完全に経営統合させるために、ゴーン容疑者に対して「圧力」をかけていたとみられています。
日産が完全にルノーの傘下に入るとフランス政府にとって良いことは、販売台数581万台、時価総額は約4兆270億円を手中に収められるということだけではありません。
日産の工場をフランスに移転させて多くの雇用を生み出せるという目先のメリットがあります。
2018年現在、失業率が9%を超え、経済不振を脱することができないマクロン政権に対する国民からの非難が日に日に増しています。
(日本の完全失業率は3%未満です)
日産の雇用が生まれることはマクロン政権維持にとって大きなプラス要素になります。
フランス政府は「あくまで民間企業のはなし」と政府の関与を否定していますが、フランスの国営企業であるルノーを牛耳っているマクロン大統領からゴーン容疑者が指示を受けていたとしても、全く不思議ではない状況です。
しかしここで新たな疑問が浮かびます。
ゴーン容疑者はルノーCEOであり、ルノー・日産・三菱の3社共通戦略を決める司令塔になっていました。
そのため、ゴーン容疑者がその気になれば、日産を完全に傘下に組み込んでしまうことは「もっと早く」できたはずです。
9月になるまで経営統合の提案がされなかったのは何故でしょうか?
それはゴーン容疑者がフランス政府からの要求を拒否していたためではないかと考えられています。
ゴーン容疑者は権力欲が異常に強いと言われています。
この3社が統合されることでゴーン容疑者の権力が薄まってしまうことを恐れていたのではないでしょうか。
ルノーCEO、日産会長、三菱会長という役職があり、それぞれが最高権力者の地位を持って自在に報酬を得られる仕組みにしている方が、ゴーン容疑者に都合が良いのは予想がつきますよね。
ところが、いつまでも経営統合に動き出さないゴーン容疑者にしびれを切らせたフランス政府、マクロン大統領は、ルノーCEOから「降ろさせる」ことをチラつかせたようです。
日産の議決権を持っているルノーCEOの座に自分以外の人間が座ることは、全てを失う可能性があるため避けたかったはずです。
フランス政府はゴーン容疑者に対して、ルノーCEO続投の3つの条件を提示していたとされています。
1.ルノーと日産の関係を不可逆的なものにする
2.後継者育成
3.ルノーの現在の中期経営計画達成
株式を買われてしまえばルノー傘下から逃れられるのが今の状態なので、「不可逆的なものにする」というのが経営統合することを指します。
ゴーン容疑者はこの条件を飲んだことで、フランス政府からルノーCEOを2022年まで延長することを約束されています。
それ以降、つまり2018年以降にルノーに恩恵のある経営判断が目立つようになったそうです。
このように、「ねじれ」をフランス政府が自国に有益になるように解消しようとしたため、日本人の経営陣は日産のフランス国有化を懸念して「ゴーン降ろし」に手をつけざるをえなかった、というのがことの本質のようです。
日産がフランスの企業になると何が悪いの?
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そうすると、こんな疑問も出てきませんか?
別にフランス企業になったっていいじゃないか?
先にも書きましたが、日産の企業としての価値が根こそぎ日本から持って行かれてしまうことになります。
それは日本経済にとって大きな損失ですよね。
目先の金だけではなく、日本人のアイデンティティも大きく損なわれることになるでしょう。
「日産」という会社名はかつて持株会社だった「日本産業」が由来になっているので、社名に日本を残すのにフランス企業になるというのは屈辱でしかありません。
(ルノーに議決権を握られている現状ですでに屈辱というのも正しいと思います)
そんな事情から社名を変更されてしまう可能性だってありえない話ではないでしょう。
また日産の工場がフランスに移転させられ、多くのリストラが行われるでしょう。
専門家の間では、日産で製造した自動車部品をルノーにダンピングさせて、ルノー製自動車の価格競争力を高めていたという見方もあり、フランスはルノーという国営企業を守るためなら何でもしてくることが予想できます。
このことからみてもフランスが日産で働く日本人を守るために何かをしてくれるとは絶対に考えない方が良いでしょうね。
まとめ
カルロス・ゴーン容疑者の逮捕というカリスマ経営者の失墜劇の裏側には国家的な策略があるという見方は、誇大妄想のように思われる方もおられるかもしれません。
しかしここで書いてきた解説を読んでいただければ、それが誇大妄想とも言えないことということに気付いてもらえるかもしれません。
陰謀論をことさら強調することは好むところではありませんが、この世は陰謀でできているというものの考え方もあり、陰謀論を無視はできません。
この事件をややこしくしているのは、ゴーン容疑者が「どんな罪を犯した」ということと「なぜ逮捕されたのか」をマスメディアがごっちゃにして解説していることが多いからです。
この記事では「なぜ逮捕されたのか」についてフォーカスして書いていきました。
どんな罪をどのような手法で、ということは捜査の過程で見えてきていますので、別の記事で書いてみたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました
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